ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-117
*野口(舟山)幸子,寺島一郎(東大・院・理)
リンは植物の成長に欠かすことができない重要な元素である。地中海地方原産のマメ科植物シロバナルピナス(以下、シロバナ)とホソバルピナス(以下、ホソバ)は、どちらもリンが非常に少ない土壌で生育できる。シロバナは、リンが乏しい土壌に適応した植物種にしばしば見られる、短い側根がクラスタ-状に密集して分布するクラスタ-根を作る。一方、ホソバは、クラスタ-根を作らない。本研究の目的は、根の形態が異なるシロバナとホソバでは低リン酸環境に対する応答がどのように異なるのかを明らかにすることである。シロバナとホソバを2段階のリン酸条件下で34日間水耕栽培し、成長と根の呼吸速度、葉と根のリン酸濃度を調べた。
低リン酸条件(以下、低P)において、シロバナでは根の乾燥重量の約30%がクラスタ-根であった。ホソバは低Pで長い側根をもつ太い根を作った。低Pのシロバナの個体重は、高リン酸条件(以下、高P)と同等あるいはそれ以上であった。一方、低Pのホソバの個体重は、高Pに比べ減少した。低Pのシロバナのクラスタ-根の呼吸速度(重量あたり)は、高Pの根よりも高かった。一方、低Pのホソバでは、根の呼吸速度は高Pの根と変わらなかった。葉と根のリン酸濃度から個体あたりのリン酸量を推定すると、低Pのシロバナは低Pのホソバに比べ、約3倍リン酸量が多かった。しかし、単位重量あたりのリン酸量は、シロバナとホソバでほぼ同じだった。本研究から、シロバナとホソバは低リン酸環境に対する応答が大きく異なることが明らかになった。シロバナはクラスタ-根を作ることにより積極的にリン酸を多く獲得し、低リン酸環境での速い成長を実現していることが示唆された。一方、ホソバが低リン酸環境でも生育できるのは、吸収するリン酸量は少ないが、成長が遅く個体内のリン酸濃度が高いためである可能性が高い。