ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-192
*奥田 圭(東京農工大・院・連農),小金澤正昭(宇都宮大・農・演習林)
1970年代後半から,全国各地でニホンジカ(以下,シカ)が増加し,森林生態系に様々な影響を与えるようになった.こうした生態系被害の問題に対して,各地で防鹿柵の設置などの対策が実施されており,森林植生の回復には一定の効果が得られている.一方,こうした効果が動物相に及ぼす影響について検討した研究事例は少ない.
本研究では,1998年および2001年に防鹿柵が設置された栃木県奥日光地域において調査を実施し,防鹿柵の設置に伴う植生の変化が,鳥類群集に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.
調査は,2010年の5月から7月にかけて,奥日光地域のシカ密度の異なる高山(防鹿柵内),光徳(低密度地域),千手ヶ原(高密度地域)の3地域において,鳥類調査および植生調査を実施した.また,過去の柵内のデ-タとして,上野(2004)を参照した.
本調査および上野(2004)の鳥類調査によって得られたデ-タは,それぞれ調査地点ごとに合計し,TWINSPANの分析を行った.また,TWINSPANの結果にもとづき,類似の調査地点をグル-プとした上で,このグル-ピングを被説明変数,各調査地点の植生に関するパラメ-タを説明変数として,正準判別分析を行い,鳥類の種組成と関連の強い環境条件を検討した.
その結果,防鹿柵が設置されて約10年が経過した現在も,柵内の低木類は回復しておらず,柵内に成立する鳥類群集は,防鹿柵設置以前と顕著な差異がないことが示された.
本発表では,奥日光地域における防鹿柵の設置に伴う植生の変化が,鳥類群集に及ぼす影響を示すとともに,鳥類群集の保全を考慮した対策としての防鹿柵の有効性および設置位置の適切性について考察する.