ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-193
*須藤正彬, 刑部正博(京大・農)
植物ダニなどの小型節足動物は、しばしば葉面の毛や葉脈沿いの窪み、ドマティア(脈腋の間隙)などの微細立体構造に付随して卵を産み付ける。これらの構造は小型捕食者の行動を阻害し餌探索速度を低下させるため、立体構造下への産卵は捕食回避に有効だと考えられてきた。それでも卵期間の長い被食者種では、卵は孵化前に食べ尽くされるかもしれない。このとき捕食者が発見できないか、物理的に捕食不可能な位置に産卵すれば、卵日数の長短にかかわらず卵は保護されるため、発育の遅さによる繁殖成功上のコストを回避できるかもしれない。にも関わらず葉面構造が有する機能として、捕食者の探索努力に対する卵の隠蔽効果は実証されていなかった。
本研究では植食者であるチャノヒメハダニおよび、そのホスト植物の一つであり、葉面に豊富な星状毛とドマティアを有するコバノガマズミ、その葉上で優占するジェネラリスト捕食者であるケブトカブリダニの3者を用い、ヒメハダニ卵における葉面構造の捕食回避効果と卵期被食リスクの経時変化を検証した。卵のほぼ全数がコバノガマズミ葉の星状毛の下に産み付けられており、孵化率は葉表の葉面で30%、葉裏の葉面で85%、葉裏の葉脈沿いで60%、葉裏のドマティア内で70%という異なる値を示した。卵期間は25°Cで平均11.4日間だったのに対し、葉あたり2頭のカブリダニ成虫が常に存在する条件下でも捕食件数の95%が卵期間前半の5.95(葉表)ないし8.8(葉裏)日間に集中した。この期間内の日あたり被食リスクは指数関数的に減少した一方、卵の発生に伴う性質変化は被食リスクと無関係であった。このことから、捕食者が到達可能な位置にあった卵だけが探し尽くされた結果、被食リスクの時間的飽和が観測されたと考えられ、長い卵期間を有する被食者において、卵の隠蔽が食べ尽くし回避に寄与する可能性が示された。