ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-194
*保坂哲朗, 胡友貴, 奥田敏統(広島大・総合科学)
リモ-トセンシングを用いた熱帯雨林の生物多様性評価には、森林タイプ及び林縁が動物相に与える影響を明らかにする必要がある。著者らは、半島マレ-シアパソ-森林保護区において、アブラヤシ園との林縁部から択伐林(伐採後5年)を抜け、天然林の奥へと延びる約1kmのライントランセクトを設置し、60m間隔で15個の観察点(択伐林区7点、天然林区7点、両森林の境界1点)を設け、カメラトラップとピットフォ-ルトラップによる、地上性ホ乳類及び糞食性甲虫類(以下フン虫)の調査をそれぞれ行った。
地上性ホ乳類は計304回8種の写真が得られた。いずれもかく乱された森林で普通に見られる種であり、撮影回数に天然林と択伐林で有意差はなかった。総撮影回数、種数、種多様度はいずれもアブラヤシ園からの距離に対して有意な負の相関があり、アブラヤシの餌としての利用が示唆された。これに対しフン虫は、計535個体33種(ハネカクシを除く)が得られ、総個体数、種数、種多様度はいずれもアブラヤシ園からの距離に対して、有意ではない正の相関が見られた。ホ乳類の多様度は林冠の高さと閉鎖度から有意な回帰ができなかったが、フン虫の多様度はこれらのパラメ-タ-からやや有意な回帰ができた(R2 = 0.399, P = 0.047)。これらのことから、調査区における地上性ホ乳類はアブラヤシ園に近い択伐林を選好するのに対し、フン虫類はアブラヤシからはなれた天然林を選好し、とくに局所的な林冠構造の違いがその多様度を規定することが示唆された。また、今回見られなかった天然林選好性のホ乳類は、調査区よりさらに森林内部に生息が限定されている可能性がある。