ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-201
*和田葉子,岩崎敬二,遊佐陽一,奈良女子大学理学部生物科学科
捕食者が被食者に及ぼす直接効果には、消費型(CE)と非消費型(NCE)がある。同様に、捕食者が被食者を通して植物などの資源に及ぼす間接効果には、密度介在型(DMII)と特性介在型(TMII)がある。近年多くの研究で、TMIIの大きさはDMIIと同等以上とされているが、これらはTMIIの効果が出やすいように実験系を組んでいることが多い。また、従来の研究で資源の量は調べられているが、植物相の変化はほとんど扱われていない。藻類食性笠貝キクノハナガイ(Siphonaria sirius)の家痕の周囲には藍藻(Lithoderma sp.)が生えており、キクノハナガイがその生存率を高めていることが示唆されている。そこで今回「捕食者のイボニシ(Thais clavigera)?被食者のキクノハナガイ?資源の海藻相」という系に、CEを模したキクノハナガイの段階的除去処理、NCEを模したケ-ジ内捕食者摂餌処理、及びその組み合わせを行うことで、これらの相対的な重要性と、その結果生じるDMIIやTMIIの評価をした。これらの処理は潮間帯の実験区内で行い、その程度が自然下での被食率と等しくなるようにした。結果、キクノハナガイの成長率はNCE処理によってのみ低下した。また、DMIIとTMIIは藍藻の被度を同程度減少させ、緑藻(Ulva sp.)を増加させた。以上から、この系ではNCEの方がCEよりも大きく、TMIIはDMIIと同程度であることが分かった。また、緑藻と藍藻の被度に強い負の相関がみられたことから、直接効果によりキクノハナガイの影響が弱まると、競争上優位な緑藻が藍藻を駆逐するために海藻相の被度が変化すると考えられた。自然状態に近い系で対象生物同士の関係を明らかにすることが、間接効果のはたらき方を理解する上で重要だと思われる。