ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-237
鈴木規慈*(三重大院生資),佐藤拓哉(京大フィ-ルド研),原田泰志(三重大院生資)
多くの生物種において,生活史が環境によって変化することが知られている.特に魚類では,新規に導入された環境下で本来の生息環境と比較して体サイズや寿命などの生活史形質や繁殖期などが変化する例が知られている.本邦において,ため池などの人為的環境下に生息する魚類の多くは人為的に導入されたものであると考えられ,それらの生活史特性は本来の生息環境下のものから変化している可能性が高い.そこで本研究では,生息地の減少が著しいコイ科のカワバタモロコを対象として,本来の生息環境である氾濫原環境に近い農業水路の2個体群とため池に導入された10個体群を比較し,体サイズ,年齢組成および成長などがどのように異なっているかについて検討を行った.
水路の2個体群では,多くの個体は1年で成熟し,繁殖期後に生活史を全うしていることが示唆された.一方,ため池の個体群では,オスでは5歳,メスでは7歳の個体が確認され,水路の個体群に対して大型で高齢の個体で構成されていた.また,ため池の個体群間で生活史特性は多様化していた.水路の個体群における生活史特性は氾濫原環境(九州地域および琵琶湖)における先行研究の特性である「小型・短命」と類似していたのに対し,ため池の個体銀はそれらとは大きく異なっていた.すなわち,不安定な氾濫原環境下では,カワバタモロコは「小型・短命」の生活史特性を示すが,比較的安定的な環境である導入先(ため池)では「大型・高齢」のように特性が本来のものから大きく変化しているだけでなく,それぞれの生息環境に合わせて異なる生活史特性を持つことが示唆された.