ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-246
*松井彰子,上野正博,山下洋(京大・フィ-ルド研)
種にとって最適な生活史戦略は、その種が経験する生息環境や分布の広さに大きく影響を受ける。r/Kの概念によると、多様な環境で生息可能な種(ジェネラリスト)の成長・成熟は早く、純繁殖率は高い(r戦略)。一方、限られた環境にしか生息していない種(スペシャリスト)の成長・成熟は遅く、純繁殖率は低い(K戦略)。r/Kの概念は、これまで多くの生物について検証されてきたが、魚類において同所的に生息する近縁種間で調べた研究は少ない。
スジハゼAcentrogobius pflaumiiは,日本列島沿岸に広く生息している海産魚である.スジハゼには,形態により区別される3タイプ(Aタイプ、Bタイプ、Cタイプ)の存在が知られている(瀬能,2004).京都府北部舞鶴湾には上記の3タイプが全て生息していることが確認されているが、Cタイプは湾内に広く分布しているのに対し、A、Bタイプの分布は非常に限られている。また、3タイプの生息環境は主に底質・水深・塩分において異なっており、Cタイプはジェネラリストに、Aタイプはスペシャリストに近く、Bタイプはその中間型であると言える。本研究では、舞鶴湾に同所的に生息するスジハゼ3タイプを用いて生活史特性を比較し、生息環境が生活史特性に与える影響について検討した。
2009年10月から2010年11月に、舞鶴湾内の1地点で、スジハゼ3タイプを定期的に採集した。タイプ別・雌雄別に標本の年齢査定、体サイズ・生殖腺重量測定を行い、寿命と繁殖期を推定した。また、成熟した雌の卵巣内の卵サイズおよび卵数を測定し、これらと体サイズの関係、およびその繁殖期間中の変化を調べた。
その結果、成長・成熟の速さと純繁殖率はCタイプで最も大きく、Aタイプで最も小さいと推察された。スジハゼ3タイプの生活史戦略はr/Kの概念に当てはまっていると考えられる。