ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-094
*松久聖子, 柳沢直(岐阜県立森林文化アカデミ-)
雌雄異株の植物の場合、種子の性比は理論的に1:1になることが示されているが、野外集団では繁殖に参加している個体の性比が雌雄どちらかに偏る例が報告されている。本研究では、落葉低木であるコクサギ(Oryxa japonica)を対象に、著しく性比の偏りが生じる理由について考察した。調査地は主に岐阜県郡上市美並町の石灰岩地で、林床に広くコクサギが優占している。コクサギは枝が地面についたところから発根し、旺盛に伏条更新していた。伏条したラメットのつながりを完全に確認することはできないが、つながりが確認できたところまでを一つの個体として扱った。50mのライントランセクト上に出現した95ラメットについて、花により性を確認したところ、雄と雌のラメット数はそれぞれ82, 13であり、性比は大きく雄に偏っていた。雌雄の間で伏条のしやすさに差があるならば、ラメット単位での性比の偏りが生じると考え、130個体について伏条の形態・生態・生育場所の環境について調査を行った。また、伏条に関する性質として、発根のしやすさの雌雄差を調べるため、雌雄それぞれ10個体から枝を採取し、挿し木実験を行った。雌雄間では、雄の方が伏条している個体の割合が多く(雄78%, ♀29%)、伏条枝の数**、同一ジェネット内のラメット間距離**、などが大きかった。また、上を向いて出る枝の数*は雌の方が多かった(weltch t-test: *p<0.01, **p<0.001)。また、雌雄の生育環境に差はみられなかった。挿し木した枝の発根に関しては、発根率に雌雄差はなかったが、発根数***・根長***・根重***は雄の方が大きかった(Mann-Whitney U-test: ***p<0.01)。以上のことから、コクサギの野外集団でラメットの性比が雄に偏る理由は、雄の方が伏条しやすい性質をもつことによると考えられる。