ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-103
*指村奈穂子(埼玉自然博),古本良(林育セ),斎藤久夫(東蒲自然同好会),中沢英正(津南町自然に親しむ会),池田明彦(品川区役所)
エゾヒョウタンボクは南千島、サハリン、北海道から本州北部の数ヶ所(いずれも風穴地)に隔離分布するスイカズラ科植物であり、環境省レッドリストで絶滅危惧II類(VU)に指定されている。本種は倒伏した幹から発根し無性繁殖していることが観察されているものの、実生はほとんどみあたらない。研究の目的は、エゾヒョウタンボクの繁殖特性を調査し、保全に必要な条件を解明することである。
新潟県の生育地において、送粉者観察、交配実験、種子散布者観察を行い、種子を採取して発芽試験を行った。
花の周辺ではハナバチ類6種、ハナアブ科3種、コウチュウ類2種が観察されたが、その中でも特にコマルハナバチなどのハナバチ類が繰り返し訪花していた。訪花は明け方から午前中に集中した。交配実験では袋かけを行い、人工他花授粉、人工自家授粉、除雄、無処理および袋かけをしない対照の5処理を行い、結実率はそれぞれ34.62%、7.14%、0%、12.33%、24.19%であった。果実の赤熟期に鳥の観察を行ったが、鳥による果実の採食は観察されなかった。種子を11月に播種したところ、翌年8月になって約29%の発芽が確認された。
本種はハナバチ類による送粉によって他花受粉され結実すると考えられる。発芽には温度の上昇が必要であるが、生育地は風穴で夏でも温度は10℃以下である。発芽と生育には異なる温度条件の必要性が示唆された。現在の生育地では栄養繁殖で個体を維持できるが、風穴は安定期間が長くなると岩塊内の空隙が埋められ消滅していく可能性がある。本種の存続には、新たな風穴の成立と、発芽と生育に適する限定的な温度域への種子散布が必要と考えられる。