ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-104
*加藤健吾(総研大・極域科学)・木村恵(森林総研)・練春蘭(東大・ア生セ) ・野村俊尚(東大・新領域)・伊村智(極地研)
銅などの重金属濃度の高い環境に生育するコケ植物を総称して銅ゴケと呼ぶ. 中でも、ホンモンジゴケ (Scopelophila cataractae) は代表的な銅ゴケであり、市街地では銅を含む建造物の周辺、山地では銅鉱山の周辺などに分布している. 現在までに日本国内では市街地を中心に少なくとも120以上の地点で生育が確認されているが、これら多くの生育地間をホンモンジゴケはどのような過程を経て分布を拡大してきたのだろうか?
過去の分布拡大過程を推定するためには、まず国内各地の集団の遺伝構造を明らかとし、集団間で比較をおこなう必要があるが、ホンモンジゴケは主に栄養繁殖により個体群の維持と分布の拡大を行っていると考えられるため、遺伝的多様性が生じにくいと考えられる. 現にアロザイム分析では東京市街地の少数の集団においては遺伝的多様性を観察できていない. この結果は、解析した集団が遺伝的に同一な個体より構成されている事を示唆するが、多型性が低いために変異を検出できなかったという可能性も考えられる.
そこで、本研究では遺伝的変異の検出感度が特に高い方法であるマイクロサテライト解析を用いる事で、より詳細な国内集団の遺伝的多様性解析をおこない、過去の分布拡大過程を推定する事を目的とした. 現在までに多型性がある6座のマイクロサテライトマ-カ-をホンモンジゴケにおいて開発することができた. これらのマ-カ-を用いて予備的な解析を行った結果、解析した各集団に遺伝的多様性がみられ、また、山地と市街地の集団間ではもちろん、市街地の集団間でも遺伝的に分化していることが明らかとなった.