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ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-108

早咲きは食害者からのエスケ-プ -開花時期への自然淘汰と地理的変異-

*川越哲博(北大・創成), 工藤洋(京大・生態研センタ-)


植物の繁殖システムや花形質の進化生態学的研究は送粉者との相互作用に着目したものがほとんどであった。しかし複雑な自然群集において植物は送粉者以外の種とも相互作用しており、それらの種も繁殖形質の進化に大きく影響しうる。本研究では、アブラナ科の多年草ハクサンハタザオの開花時期に働く自然淘汰が集団によって異なること、その淘汰圧の地理的変異が食害者であるダイコンサルハムシによってもたらされていることを示す。

調査は兵庫県中部の近接する2集団で2年間行った。一方の集団ではハムシによる花の食害が激しく、もう一方の集団ではハムシが存在せず花への食害がほとんどない。開花時期への自然淘汰を明らかにするため、ハクサンハタザオの開花時期、食害の程度、果実生産を調べた。ハムシがいる集団では、早咲きが有利になる自然淘汰が2年とも検出された。一方ハムシがいない集団では早咲きへの淘汰が検出されない年もあった。ハムシがいる集団で人為的にハムシを排除する野外実験を行ったところ、早咲きへの淘汰がなくなってしまった。以上の結果は、ハムシの分布の空間的異質性が開花時期への自然淘汰の地理的変異をもたらしていることを示している。

この自然淘汰の違いが開花時期の遺伝的分化をもたらしているかを明らかにするため、両集団由来の株を同じ室内条件で栽培し、開花時期を比較した。しかしこの実験では2集団で開花時期に違いがなく、遺伝的分化は認められなかった。これはハムシの定着が最近生じたか、2集団間の遺伝子流動が起こっていることによると考えられた。

本研究は、自然群集における植物の繁殖形質の適応進化を理解する上で、多種からなる相互作用系のもとでの自然淘汰を明らかにする必要があることを示している。


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