ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-111
*小沼明弘, 下野嘉子, 水口亜紀, 松尾和人(農環研), 田中篤, 堀崎敦史, 新倉聡((株)ト-ホク), 木村澄(畜草研), 吉岡洋輔(野茶研), 大澤良(筑波大)
様々な訪花昆虫で、形質の異なる花が混在している場合、特定の花を優先的に訪花する傾向があることが知られている。これには二つのメカニズムが関与していると考えられている。一つは先天的な好み(Innate preference)と言われるもので、事前の経験なしに特定の形質を持つ花を優先的に訪花する行動である。もう一方は定花性(Flower constancy)と呼ばれるものである。これも特定の花を優先的に訪花する現象であるが、記憶能力が限られている昆虫が、経験に基づき採餌効率を上げるための行動であると考えられている。定花性は様々な訪花性昆虫で知られている。定花性を持つ昆虫では、採餌飛行中に異なるタイプの花に遭遇しても(そしてその花がより多くの報酬を与える場合であっても)、それを採餌せず同じタイプの花を訪花し続ける現象が観察されている。同一種内での定花性は、形質の異なる花間での交配制限につながり、植物の種分化に影響を与えると考えられているが実際の証拠は得られていない。本研究ではモデル植物として Brassica rapa の近交系統、訪花昆虫としてセイヨウミツバチを用いて、定花性により形質の異なる花間での送粉が制限されるかを検証した。隔離網室において B. rapa の花冠の形質(花冠全体および紫外線吸光部位の面積)の類似した2系統の組合せ、異なる2系統の組合せを配置し、セイヨウミツバチを訪花させ、それぞれの場合についてミツバチの定花性と植物の系統間交配率を調査した。その結果、花冠形質の類似した組合せでは定花性は低く、異なる組合せでは高くなった。更に系統間交配率は定花性が低い組合せでは高く、定花性が高い組合せでは低くなり、ミツバチの行動が実際に系統間で送粉制限をもたらすことが示された