ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-116
*伊藤大将,増沢武弘(静岡大・理)
富士山南斜面の標高1000m-1600mにはブナ(Fagus crenata)を優占種とした落葉広葉樹林が存在している。ブナ林は日本海側ではブナの優占度が高く、純林に近いブナ林が成立している。一方、太平洋側ではブナの優占度が低く、他の落葉樹との混交林をつくることが多い。現在、太平洋側のブナ林では成木は多く生育しているが、稚樹が少ないことから更新が停滞していると考えられている。本研究では富士山南斜面のブナ群落を調査し、その現状を明らかにするとともに、ブナ群落の将来について考察することを目的とした。
調査地は富士山南斜面のブナ群落を対象に方形区を設置した。比較として日本海側の雨飾山のブナ群落においても調査をおこなった。
富士山南斜面の全調査区において、ブナの全個体数に対して、DBH20cm未満のブナは14.4%、20cm以上40cm未満は26.8%、40cm以上は58.8%となった。一方、雨飾山では20cm未満79.4%、20cm以上40cm未満6.3%、40cm以上14.3%であった。また、1?あたりの実生の個体数は富士山よりも雨飾山が多かった。実生・稚樹が多く存在している雨飾山に対して、富士山のブナ群落は実生・稚樹が少なく成木・老齢木が多い状態である。
現在の富士山のブナ群落は小氷期に群落を拡大した際の遺存種(レリック)と言われているため、群落を維持・拡大させるための条件が不十分な状態であると考えられる。そのため富士山のブナ群落は今後、衰退していく可能性が高い。ブナの衰退後に優占種となる樹種は、現在の森林の種構成からイタヤカエデ、サワグルミ、シナノキ、ウラジロモミであろうと予測される。その中でもイタヤカエデはブナの大径木に匹敵する胸高直径・樹高の個体が存在していること、幼木が多く存在することから、将来、優占種となる可能性が高い種と考えられる。