ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-203
*酒井陽一郎(京大生態研), 福森香代子(テキサス大), 西松聖乃, 陀安一郎, 奥田昇(京大生態研)
種内の栄養多型は、環境変動に対する適応機構として機能するだけでなく、生態系の構造や機能に影響しうることが認識されつつある。近年、湖沼食物網の高次捕食者である魚類の栄養多型がプランクトン群集の体サイズ構造と種組成、そして一次生産量なとの機能に与える影響が報告されたが、下位群集全体の構造や機能に与える影響については、未だ不明瞭なままである。そこで本研究では、室内に設置された中規模人工生態系を用いて湖沼食物網を再現し、湖沼の高次捕食者となる魚類の栄養多型を操作(プランクトン食魚区、ベントス食魚区、混合区、魚無し区)することで、捕食者の栄養多型がプランクトン食物網の構造と機能に与える影響について検討した。実験では、食物網の構造の指標として捕食者-被食者体サイズ比(PPMR:Jennings et al. 2002)と食物連鎖長(FCL)、機能の指標として生物量を考慮した群集の平均栄養段階(=Σ(生物量i×栄養段階i)/Σ(生物量i))を測定した。その結果、ベントス食魚はプランクトン食物網におけるPPMRの減少、FCLの伸長、平均栄養段階の低下をもたらした。これは、多くの生産者と非常に少数の肉食性動物プランクトンによって構成され、長く栄養転送効率が悪と考えられる。一方、ベントス食魚とプランクトン食魚の相乗効果は、PPMRの増加、FCLの収縮をもたらした。この結果は、プランクトン食物網が生産者と低次栄養生物のみで構成され、短く栄養転送効率がよいことを示唆する。以上の結果により、高次捕食者の栄養多型は食物網の構造と機能に異なる効果を与えること、PPMRと群集の平均栄養段階を用いることで、食物網の構造と機能を量的に評価できることを示した。