ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-207
*岡田浩明, 浦田悦子, 常田岳志, 長谷川利拡 (農環研)
水田の生物多様性の保全は国民の関心が非常に高い環境問題である。一方、地球温暖化も重要な環境問題であり、農学分野では水稲生育などへの影響が解明されつつある。しかし、水田生物に対する温暖化の影響を解明しようとする研究はほとんど行われていない。そこで、50年後の地球温暖化の条件を想定したFACE(開放系大気CO2濃度増加)装置を水田に設置し、土壌に生息する線虫を主な対象として、CO2ガス濃度及び水温の増加の影響を明らかにすべく調査を始めた。線虫は寄生虫と見なされがちであるが、陸域や水域の生態系に自由生活性の様々な種が生息し、淡水域では魚類などの餌となることが報告されている。
実際の試験区は、直径約17mのリングからCO2ガスを放出し、CO2ガス濃度を現状より200ppm濃度を高めた「FACE区」及び対照区である「Ambient区」、さらに各々の区の中に入れ子として設置し、電熱線により水温を2度高めた「加温区」及びその対照区である「無加温区」の4種類である。これらのセットを計4筆の水田に設置し、水稲生育期間中にCO2ガス放出及び加温処理を継続した。
本年度は予備調査として、8月下旬の落水直後に土壌を採取し、その中の線虫全体の密度について検討した。CO2ガス濃度を1次要因、水温を2次要因とし、ブロックを持つ分割試験として統計分析したところ、両要因とも線虫密度に対する影響は有意でなかった。ただし、加温区の方が無加温区より密度が2割ほど低い傾向があった(P=0.066)
来年度から再来年度にかけ、水稲生育期前後に土壌を採取し、線虫の食性群ごとに密度を推定し、その餌となる水稲根、土壌微生物、表層藻類などのバイオマスとあわせて、温暖化の影響を明らかにしたい。