ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-213
*向井 康夫(京大),大塚泰介(琵琶湖博),森本幸裕(京大),日鷹一雅(愛媛大)
水田は安定した季節変動をする二次的湿地であり、自然湿地に生息していた生物の代替生息地として機能してきたと考えられている。近年、水田の生物多様性保全への価値が認められつつある。滋賀県の水田では“慣行農法”、減農薬など環境に配慮した“こだわり農法”、化学肥料や農薬を使わない“有機農法”などが行われている。しかし、これらの農法や水田の水分条件、立地などの大型水生動物群集構造への影響についての知見は十分でない。本研究では、水田の農法、管理、立地などが水生動物群集に与える影響を明らかにするために、滋賀県高島市マキノ町、針江、畑、大津市仰木、田上、草津市、多賀町、彦根市、東近江市の9地域26筆の水田(慣行6、減農薬10、無農薬10筆)で、入水から中干しの期間に調査を行った。
調査は1mmメッシュ、幅20cmの網を用いて0.4m×1mの範囲を掬い取る方法で行い、採集された肉眼で観察できる概ね体長1mm以上の水生動物の分類群名、個体数を記録した。この一連の調査を各水田で原則として10回繰り返した。水田の管理や水条件などは農家の方へのアンケ-トにより調査した。
結果、26筆の水田で合計6門11綱118分類群47739個体の大型水生動物が確認された。各水田で確認された大型水生動物は16-53分類群、245-5729個体(61-1432個体/m2)であった。異なる農法の水田間には分類群数、密度、多様度とも有意差は認められなかった。水生動物の種組成に基づくいくつかのクラスタ-分析で、水田が湖の西と東に大きく分けられ、地域ごとにかたまる傾向が認められた。これらのことより、滋賀県の水田では、大型水生動物群集の構造への農法の影響は明瞭でなく、地域の違いが影響していることが示唆された