ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-216
*石田裕子,壷林裕士,津本裕也,松村勇希,三雲唱平(摂南大学理工学部),片野泉(University Oldenburg),石塚正秀(香川大学工学部)
本調査地である紀の川には,取水堰が複数設置されている.その一つである岩出井堰は農業用水取水のため,灌漑期と非灌漑期で人為的な水位変動が大きい.本研究では,岩出井堰が水生生物の群集構造・生息場構造に与える影響を明らかにした.
調査は,灌漑期のみ湛水域を形成し堰による湛水影響を受ける堰上流,堰の影響を常時受けている堰下流,堰の影響を全く受けない支川の貴志川中流の3地点を選定し,最も河床・水理変動の影響を受けやすい早瀬とわんどで行った.灌漑期・非灌漑期の水位変動および季節変化を考慮し,非灌漑期の2009年3月,5月,灌漑期の8月,非灌漑期の11月,2010年1月を調査期間とした.環境の調査項目として,水深,流速,水温,底質,水質を測定した.生物の調査項目として,魚類および底生生物を対象とし定量採集を行った.
環境調査の結果から,下流の早瀬では灌漑期に水位・流速ともに減少していた.この地点は粗粒化の傾向が見られた.しかし,環境要因と生物要因を考慮したRDAの結果,下流は調査時期による違いは見られず,早瀬とわんどに分類され,早瀬では比較的多様な生物が生息していた.一方,上流の早瀬は,調査時期によって異なる結果を示した.11月と1月には下流や支川の早瀬と同様の傾向を示したが,5月と8月にはわんどと似た環境を示した.これは6月からの灌漑のために,5月からすでに湛水を開始しており,この地点まで背水域となっていたためと考えられる.上流では,調査時期に関わらず,ユスリカ類が多く生息していた.また,流れの緩やかなところを好むキイロカワカゲロウが多く採集されたことから,比較的止水環境になっていると考えられる.最も生物多様性の高かったのは支川であり,堰の影響を受けず多様な底質や流れの環境があったためと考えられる.