ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-238
*土屋結(筑波大・生命環境),藤岡正博(筑波大・農技セ),富田直樹,新妻靖章(名城大・農)
日本に生息するコブハクチョウは、外来種であるにもかかわらず多くが人工給餌を受けており、それによって個体数の増加を招くことが懸念される。不定期に行われる人工給餌を量的に把握するのは難しいので、安定同位体比分析によるコブハクチョウの給餌への依存度解明を試みた。
調査は、コブハクチョウの産卵が始まる2010年3月から孵化が終わる同年6月末に行った。霞ヶ浦全域を隔週で回り、コブハクチョウの営巣場所、卵数、雛数を記録するとともに、潜在的な餌として野生植物4種(アシ、ガマ科、ウキヤガラ、マコモ)、各営巣場所に残っていた卵膜と卵殻、および羽毛を採取した。また、人工給餌物として、食パン、ふすま、中雛用の餌を用意し、これらの窒素と炭素に関して安定同位体比を分析した。
安定同位体比分析の結果、コブハクチョウの卵膜と潜在的な餌資源を比較すると、野生植物についてはδ15Nの差はおおむね1栄養段階分に相当するが、δ13Cの差が著しく大きかった。また、各営巣地の野生植物の平均δ15Nのばらつきが大きく、負の値を取ってしまうものから3栄養段階分に達してしまうものまであった。一方、パンやふすまとの間ではδ13Cの差は小さかったので餌に占める割合は大きかったと推測されるものの、δ15Nの差は栄養段階で3-4程度に相当するほど大きかった。つまり、霞ヶ浦で繁殖するコブハクチョウではδ13Cとδ15Nの双方とも既知の濃縮係数と同様な値をとるものがなかったため、人工給餌物への依存度を定量的には評価できなかった。しかし、今回サンプルとして用いた卵殻や卵膜、羽毛は捕獲や殺傷を要しないので、今後関連研究が増えることにより人工給餌への依存度等を解明する有力なツ-ルになるであろう。