ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-266
*甲山哲生(北大・院環境), 片倉晴雄(北大・院理)
食植性昆虫の寄主選択行動(摂食/産卵選好性)は,遺伝的要因の他に過去の経験などの環境的要因によって決定されると考えられる.過去の経験の影響については,幼虫期の経験が羽化後の産卵選好性に影響を与えるかという点について古くから議論がなされてきた.もし自身が育った寄主(食草)上に産卵するようになれば,新たな食草への適応がより迅速に進むであろうことから,このような性質は寄主拡大の初期において重要な役割を果たすと考えられる.
キクビアオハムシ(ハムシ科,以下本種)は日本に広くに分布し主な食草としてサルナシ(マタタビ科)を利用するが,関東以西ではオオバアサガラ(エゴノキ科)を利用する集団が見られる.これまでの研究結果から,オオバアサガラ の利用が比較的最近に各地で独立に生じた可能性が示唆されている.本種では,実験室内では生存率が低いオオバアサガラを野外で利用している状況が頻繁に見られるが,このような一見非適応的な寄主選択行動は,過去の経験の影響によって生じている可能性が考えられる.
本種において幼虫期及び羽化後の経験がその後の寄主選択行動に与える影響について調べた結果,(1)羽化直後の新成虫は明確な選好性を示さなかったものの,(2)羽化10日後の摂食選好性については、幼虫期及び羽化後の早い段階での経験の影響がみられ,特に幼虫期と羽化後に同じ食草を与え続けた個体は、その食草に対して強い選好性を示した.また,(3)越冬後の産卵選好性についても過去の経験の影響が見られ,羽化後に与えた食草上により好んで産卵する傾向が見られた.
以上より,キクビアオハムシにおける寄主選択行動は過去の経験の影響を強く受け,幼虫期の経験も間接的に産卵選好性に影響を与える可能性が示唆された.このような選好性の柔軟な変化は,本種における寄主拡大を容易にしたと考えられる.