ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-269
*山口正樹,工藤洋(京大・生態研)
花の形状における変異は、受粉の成否に影響し、繁殖の成功に直結する最も重要な形質の一つである。特に、葯と柱頭の距離のような花器官の相対位置は植物の繁殖成功の主要な決定要因となる。
一年草は一回繁殖において確実な繁殖成功を得るために自動自家受粉機構を持つことが多く、その場合花の大きさは一般に他殖植物よりも小さくなる。しかし、花器官は発生過程を一部共有しているため、大きさにおける相関は高く、そのために上記の傾向が成り立たなくなる場合がある。
本研究ではシロイヌナズナ属Arabidopsisの野生種、A. kamchatica、およびA. halleriを対象に花形態の変異を調べた。 A. kamchaticaはA. lyrataとA. halleriを推定両親とする異質4倍体である。 A. kamchaticaは2つの亜種ミヤマハタザオとタチスズシロソウを含み、これらは近縁でありながら、前者が高山の礫地、後者が低地の砂浜という異なった環境下に生育する。 また、A. halleri(ハクサンハタザオ)は自家不和合の多年草であり、ミヤマハタザオは自家和合の多年草、タチスズシロソウは自家和合の冬期一年草である。このことから本研究では、3亜種における生活史と花器官の相対長の関係を調べ、最近分化した近縁な植物において花器官の大きさは一般的な法則に従うか(一年草のほうが花が小さいか)どうか、また、上記に従わない場合、花器官の表現型相関がそれを説明するかを明らかにするために、3亜種の花形態を解析した。 その結果、予測に反して他2亜種よりも花器官の大きいタチスズシロソウ集団があった。また、花器官の表現型相関において3亜種で違いがみられた。