ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-275
*奥山永,鮫島由佳,椿宜高(京都大学生態学研究センタ-)
近畿地方に生息するカワトンボ属2種,Mnais costalis とMnais pruinosa は同所的に生息する.両種は,低山地渓流に生息するが,M. costalis がより標高の低い場所に,M. pruinosa が高い場所に生息し,生息地の分割がおきていると考えられている.一般に,上流域は流れが木々に覆われ,下流域はより開けている傾向がある.また,共存域では,M. costalis の方が,体サイズが大きいことが知られている.今回は,両種の体サイズ差と生息地分割の関連性を検討する.Samejima&Tsubaki(2010)は,カワトンボの飛翔力は体温と体サイズに影響されることを報告している.したがって,体サイズ,体温,飛翔力,生息地選択が相互に関係することが予測できる.また,両種の縄張り空間をめぐる競争的関係も無視できないだろう.
そこで,体サイズと光熱環境の体温調節における影響を調査した.まず野外で縄張り形成オスの体温を測定した結果,M. costalis の平均体温の方が高かった.また,実験室内で体サイズと体温の飛翔速度への影響を調査した.飛翔速度は体サイズ,体温に関係して変化し,飛翔速度に関する最適体温は,体サイズの大きい種M. costalis の方が高かった.これらの観察から,M. costalis がより暖かい場所を,M. pruinosa がより涼しい場所を好むことが示唆された.
次に,両種共存域における生息地分割に関し,2種の競争的関係を見るためにオスの除去実験を行った.その結果,2種間の競争の結果として生息地分割が生じることが暗示され,体サイズの大きなM. costalis が日向で普通競争に勝つことが示された.
これらのことから,両種の生息地選択には,体サイズの違いを基にした,体温の差,飛翔力の差,さらに闘争力の差が関与することが明らかになった.