ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-276
*内堀そよみ(筑波大・生物) ,徳永幸彦(筑波大・生命共存)
Baldwin(1896)は、生殖細胞系列におきた変異のみが自然選択の対象になるというneo-Darwinismの考え方に、「学習」という過程を組み込む事で、集団がより環境に素早く適応できるという考えを提唱した。これを、Baldwin効果と言う。しかし、Baldwin効果は、「学習」しなければ生き残れないような、非常に厳しい環境でしか起こりえないという事と、一見したところ、「獲得形質の遺伝」に見えるという事が原因で、生物学の分野ではあまり検討されてこなかった。数少ない実験の代表例は、Waddingtonによる実験(e.g., 1952, 1956)と、Suzuki&Nijhout による実験(2006)である。どちらも、非常に厳しい、環境を何代にもわたって設定し、その環境の与える刺激に対して、特定の形質を持つ個体のみを選抜していくという実験を行った。Waddington(1952)の実験結果では、環境の影響によって生じた形質が固定された(Genetic Assimilation)。Suzuki&Nijhout(2006)の実験結果では、環境の影響によって生じた形質が、より少ない刺激でも生じるようになった(GeneticAccommodation)。一方、多くの理論的研究も行われてきており、Baldwin効果の存在を肯定するモデルがいくつか提案されている。しかし、これらのどのモデルも、内容が抽象的であるため、前述した実験例を十分に説明できない。発表者らは、Kawecki(2010) の提案した学習曲線に、学習要素を遺伝要素に転換する「階段上り」を組み込むことによって、これらの実験結果を説明できる新しいモデルを提案する。今回提出するモデルは、特殊な進化状況を考えるBaldwin効果だけでなく、epigeneticの分野や、広く生物の共生現象を考える場合にも応用できると考えられる。