ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-287
*伊藤公一,山内淳(京大・生態研)
みずから運動する能力を持たない植物にとって、植食者に対する被食防衛は適応度に大きな影響を与える重要な要因である。被食防衛にコストが伴う場合、最適化の観点から考えれば防衛レベルにはただ一つの最適な値が存在し、植物はそれを実現するであろうと期待される。しかし実際には、同一の個体群内においても、被食防衛レベルに多型が存在する場合があることが報告されている(Agrawal et al. 2002; Gols et al. 2008)。これを理解する一つの捉え方として、防衛に関する植物個体間のゲ-ム論的な相互作用を考えることができる。植物個体上で増殖し分散するような植食者に対する防衛や、植食者の天敵を誘因する物質を放出することによる間接防衛では、ある個体の防衛レベルは周囲の植物個体の適応度に影響を及ぼすだろう。Sabelis & de Jong (1988)は、このような状況においては複数の防衛レベルの個体が共存しうることを、個体群動態モデルを適用して理論的に示した。本研究ではこの考え方を発展させ、連続的な防衛レベルの空間の中で防衛レベルの分布がどのように進化するのかを、進化ダイナミクスと個体ベ-スモデルを用いて理論的に解析した。空間構造を無視したモデルでは、防衛のコストと被食圧、および防衛について相互作用する植物個体の数によって、防衛レベルが分岐し防衛する個体としない個体の二型が生じることが示された。さらに空間構造を考慮したモデルでは、種子の分散や防衛効果の広がりが防衛レベルの分布に影響を与えることが示されている。これらの解析結果に基づいて、本発表では対被食者防衛レベルの多型の進化をもたらす要因について幅広く議論する。