ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-290
*山崎崇広(農工大・農),酒井憲司(農工大・農)
マスティングとは樹木の種子生産動態が大きな年変動を示し、かつ個体間で同調する現象である。日本の森林の主要な部分を占めるブナおよびコナラ属のマスティングは、天然下播更新施業による森林再生や野生動物の個体群管理など、生態系管理にとって重要な意味を持ち、マスティングの時空間動態の把握が求められている。
マスティングを樹木個体の資源動態から表す数理モデルとして、Isagi et al.(1997)が考案したResource budget model(RBM)がある。RBMはマスティングの変動性、同調性は説明できるが、種子捕食者による成熟前の食害や受粉失敗による中途脱落は考慮されていない。食害や中絶によって成長途上の種子脱落は、資源動態の観点からマスティングに影響していると考えられる。そこで、RBMに不稔種子コスト・虫害種子コストの機能を加え、種子食害昆虫個体群密度依存性を考慮したモデルを作成し数値実験を行った。
数値実験の結果、不稔種子コストが増加するに従って樹木個体間の同調性が弱まり、花粉結合の機能低下が示された。また不稔種子コストおよび虫害種子コストによって種子生産量の年変動の大きさおよび豊作年の周期が変化した。
上述のマスティング-種子食害昆虫系を格子空間上に展開し、種子生産量・開花量・昆虫個体群密度の時空間動態について解析した。RBMの格子モデルへの拡張はSatake and Iwasa(2002a)によっても行われているが、本研究では不稔種子コストや昆虫の分散距離によって既往の知見とは異なる時空間動態が現れた。これらの結果により、森林の種子生産動態を理解するには種子食者による食害や種子の中途脱落などの要因を考慮する必要があることが明らかとなった。