ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-291
*香川幸太郎(東邦大・理),瀧本岳(東邦大・理)
香川幸太郎*,瀧本岳(東邦大学・理・生物)
送粉相互作用が花の多様性の進化において中心的な役割を担う事が示唆されている。しかし、送粉系において花が多様化するメカニズムを理論的に詳しく解析した研究は少ない。そこで、本研究では送粉相互作用が花とポリネ-タ-の同所的共種分化を促進するという仮説を立て、個体ベ-スモデルを用いたコンピュ-タ-シミュレ-ションによって、この仮説を検証した。また、花上で訪花するポリネ-タ-を捕食する捕食者の存在が、送粉系における種分化に対して与える影響も解析した。
作成した個体ベ-スモデルでは、花と昆虫は個体ごとに特定の出現時期を持ち、出現時期が重なるもの同士だけが相互作用するとした。このモデルを用いて出現時期の共進化をシミュレ-ションし、出現時期の分化を通した生殖隔離によって種分化が起きるかどうかを調べた。その結果、花と昆虫の出現期間が短い場合には、同所的共種分化が起き得る事が明らかになった。さらに、花上で訪花するポリネ-タ-を捕食する捕食者を加えた共進化のモデルを作成し、捕食者の存在が種分化に対して与える影響を調べた。このモデルでは捕食者も個体ごとに特定の出現時期を持つとした。シミュレ-ションの結果、捕食者の存在が花と昆虫の多様化を促進することを示唆する結果が得られた。これは捕食者の存在が、頻度の高い形質を持つ花の適応度を下げ、頻度の低い形質を持つ花の共存を促進する作用を持つためだと考えられる。なぜなら捕食者は、個体数が多くポリネ-タ-がよく訪花する花の上で最も増加し、同時にポリネ-タ-を捕食することによって送粉を阻害するからである。