ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-018
*杉浦真治(森林総研)
本来分布していない地域に侵入した植物では、その天敵となる植食性昆虫相が乏しいと予想される。この予想を検証する一つの方法として、異なる移入履歴をもつ在来植物と外来植物の間でその植食性昆虫相を比較すればよい。
一度も他の陸地と接したことがない海洋島では、多くの固有種がみられる。一方、人為的に持ち込まれた外来種も多い。このように孤立した海洋島の生物相は、固有種、非固有の在来種、帰化した外来種、帰化していない外来種といったように、4つの異なる移入履歴をもつ種からなる。本研究では、海洋島・小笠原諸島に分布する木本植物を調査し、異なる移入履歴が葉食性昆虫相(潜葉性昆虫と虫えい形成昆虫)に与える影響を明らかにした。
小笠原諸島に分布する木本植物151種(固有71種、非固有在来31種、帰化18種、非帰化外来31種)について、2004年から2008年にかけて現地調査を行った。結果は予想通り、植物の移入履歴によって潜葉性昆虫および虫えい形成昆虫の利用頻度は異なっていた。潜葉性昆虫は、固有植物の53.3%、非固有在来種の35.5%、帰化種の11.1%、非帰化外来種の16.1%で見られ、虫えい形成昆虫は、固有植物の14.1%、非固有在来種の9.7%、帰化種の5.6%で見られた(非帰化外来種では全く見られなかった)。記録された潜葉性昆虫は、鱗翅目、双翅目、鞘翅目の3目に属していたが、鱗翅目(ガ類)が優占していた。虫えい形成昆虫は、半翅目、双翅目、鱗翅目、総翅目の4目に属しており、半翅目(キジラミ類)が優占していた。外来植物は在来植物よりも潜葉性・虫えい形成昆虫相が乏しい傾向にあった。つまり、記録された各潜葉性・虫えい形成昆虫は狭食性(特定の在来植物の属を利用)であるため、大半の外来植物をいまだ利用していない。