ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-020
半谷吾郎(京都大・霊長研)
東南アジア熱帯に特徴的に見られる一斉開花・結実は、花や果実を食物資源として利用する動物にとって、周年周期の予測困難な食物利用可能性の変動をもたらす。それに対する動物の反応を明らかにするのは、興味深い課題である。本研究では、ボルネオ島サバ州・ダナムバレ-森林保護区に生息するレッドリ-フモンキ-(Presbytis rubicunda)を対象に、一斉結実時にどのような食性の変化が見られるのか、また一斉結実時と非一斉結実に採食していた食物は、栄養的にどのように異なるのかを調査した。調査は、2006年12月から2008年12月まで、毎月行った。25ヶ月の調査期間中、1回だけ一斉結実が起こった。これは、この調査地では2004年7月からの4年半で最大の結実だった。一斉結実の時期には、レッドリ-フモンキ-は果実と種子の採食を増加させた。非一斉結実期には、レッドリ-フモンキ-は新葉の採食が多く、特にマメ科のつるであるSpatholobus macropterusは、調査期間全体の採食時間割合の23%を占めていた。Spatholobus macropterusの新葉の採食時間は果実の利用可能性と負の相関があり、一方そのほかの新葉の採食時間は果実の利用可能性と相関がなかった。そのため、レッドリ-フモンキ-は、果実・種子の利用できない時期に、Spatholobus macropterusの新葉をフォ-ルバック食物として食べていることがわかった。非一斉結実時の主要食物である新葉と、一斉結実時の主要食物である種子の栄養成分を比較すると、新葉のほうが窒素と繊維成分(NDF)が多い一方で、種子は脂肪を多く含んでいた。新葉はたんぱく質源、種子はエネルギ-源と、相補的な栄養的特性を持っていることがわかった。