ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-025
*星崎和彦,守屋拓(秋田県立大・生物資源),柴田銃江(森林総研東北),吉澤結子(秋田県立大・生物資源)
大型種子にはしばしば、昆虫などによる捕食や菌類に対する防御的二次代謝物質が含まれる。しかし、これが未熟段階でどの程度含まれるのか、またどの時期に合成・分配されるかはほとんど知られていないため、種子の防御物質濃度が散布後の種子害に関わる自然選択の結果なのか未熟段階の二次的な反映なのか不明である。そこで、トチノキ種子に含まれるサポニン(エスシン類)について、種子の登熟過程に沿った傾向を調べた。
秋田県大仙市の協和ダム近辺の5本の成木を供試木に、7月下旬(登熟中期)、8月下旬(成熟直前)、9月中旬(完熟)に果序を採取した。果実と種子のサイズ、虫害の有無を記録したのち、各果序から健全な胚を2つずつ選び、HPLCでエスシン類を定量した。
種子のエスシン濃度は7月が最も高く、その後減少していく傾向があった。種子あたりのエスシン含量でみると、7月から8月にかけて多量のエスシンが合成され、その増加はバイオマスの増加に先んじていた。虫害はスペシャリストの鱗翅目幼虫によるもので、各供試木の虫害率は7月が最も低く、9月が最も高かった。エスシン濃度は7月に最も大きくばらつき、9月のばらつきが最も小さかった。またどの時期でも母樹内より母樹間でより大きくばらついていた。
以上より、トチノキでは未熟種子もエスシンを含むこと、未熟段階の方がその濃度が高いことが分かった。7月に虫害率が最も低く、また成熟するにつれてエスシン濃度が低下したことから、トチノキにおけるエスシンの役割は、第一義的には登熟初期のジェネラリスト捕食者に対する防御ではないかと考えられる。また、母樹間のばらつきからは、エスシン投資における遺伝や枝先の環境条件の寄与が示唆される。