ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-026
*亀井幹夫(広島総研林技セ),原秀穂(北海道総研林試)
マイマイガは多種類の植物を食害する森林害虫である。その発生抑制のために餌としての適性に基づいた緑化樹の選択が求められているが,マイマイガの食性は地域個体群により異なる報告がある。例えばサクラを幼虫に与えた場合,北海道産,青森県産,長野県産幼虫は餌として利用するが,高知県産幼虫は餌として利用できないと報告されている。ただし,これらの報告は同一条件での試験ではないことから,飼育環境の差異によってこの違いが生じた可能性がある。また,同じ種でも開葉後の経過日数により餌としての葉の質は変わることから,潜在的には餌として利用できるが,開葉と孵化のタイミングが地域により違っていて,一部の地域では餌として利用できなかった可能性も考えられる。
本研究ではマイマイガの食性が地域個体群間で異なるかどうかを明らかにするため,広島県産と北海道産の孵化幼虫に複数の種の葉を餌として与えて生存率を比較した。開葉後の経過日数の違いによる葉特性の変化を考慮し,孵化時期を3段階に変化させて(広島県北部での孵化に対しほぼ同じ時期,約10日前,約20日後),試験を行った。供試種はソメイヨシノ,アラカシ,イロハモミジ,コナラ,ヤマモモとした。
ソメイヨシノを与えた広島県個体群の生存率は試験時期に関係なく,他の樹種と比べて低かった。一方,北海道個体群では野外の孵化時期よりも早い時期に試験を開始し,ソメイヨシノを与えた場合,1齢生存率が63%と比較的高かった。その他の種では北海道個体群,広島県個体群ともに孵化を早めるほど生存率は高い傾向があった。また,同じ樹種,同じ孵化時期で比較すると,北海道個体群の生存率は広島県個体群と比べて高い傾向があった。これらの結果に,両個体群の幼虫にオオヤマザクラなどを与えた北海道の試験結果をあわせて,マイマイガの食性の地域個体群間差異を検討した。