ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-029
*日浦勉,中路達郎,田柳詩織,中村誠宏,Onno Muller(北大苫小牧研究林),小熊宏之(国立環境研)
温暖化など大きな環境変動は生産者の質や量の変化を引き起こし、一次消費者の採食パフォ-マンスにも間接的な影響を与えることが予想される。また、このような生産者の質・量の変化がどの場所、どの程度の空間スケ-ルで起こるかを捉えるには光学的なリモ-トセンシング技術の開発が必要である。我々は成熟林を対象に温暖化処理を行い、葉の質と量および被食量の変化を明らかにするとともに、葉の防御物質濃度の空間分布を明らかにする手法を開発した。
苫小牧研究林の成熟林に設置した林冠観測用クレ-ンサイトで、ミズナラ林冠木を対象に電熱線埋設によって地下部を対照から5度上昇させる処理を2007年から継続している。これらの個体を対象に2009年春と夏に林冠葉の咀嚼性昆虫による食害度を目視評価した。また携帯型分光放射計によって個葉の分光特性を記録すると同時に、物理化学特性を定量した。またクレ-ンマストからのハイパ-スペクトルカメラを用いて実験サイトの広範囲の分光画像を定期的に取得した。
温暖化処理によって葉の量は変化しなかったが、夏の食害度は有意に減少した。一方、物理的防御と考えられるLMA、セルロ-スは変化せずリグニンはむしろ低下したのに対し、化学的防御物質と考えられるフェノ-ルとタンニンは有意に上昇した。また窒素含量はやや低下した。これらのことから、温暖化処理によってCNバランスが変化することで炭素ベ-スの化学的防御が増加し、植食性昆虫による食害度を低下させたと考えられる。携帯型分光放射計による個葉の分光情報と物理化学情報を用いてPLSモデルを作成したところ、フェノ-ル濃度が比較的高い推定精度を得ることが出来た。ハイパ-スペクトルカメラの広範囲分光画像にこのモデルを適用し、温暖化処理個体林冠部の高いフェノ-ル濃度を視覚的にも再現することが出来た。