ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-036
*後藤龍太郎(京大・院・人環),加藤真(京大・院・人環)
共生的な生物間の相互作用は、個体群の密度や、個体ごとの形質など、様々な要因によって、相利から寄生まで可塑的に変化する。すなわち、同じ生物同士の関係でも均一であることはなく、実際には様々な関係が入り混じったモザイク構造を形成する。このような生物間相互作用のモザイク構造の実態と動態の理解は、相利共生関係の進化と、成立・崩壊のメカニズムを考える上で重要だと考えられてきたにも関わらず(Thompson 2005)、未だその全体像の把握にはほど遠い状況にある。
本研究では、コミカンソウ科カンコノキ属とホソガ科ハナホソガ属の送粉共生系を用いて、相互作用の集団間の違いと、一方の形質や個体群密度が他方に与える影響を明らかにし、相利共生関係の地理的な変異(モザイク構造)の実態を把握することを目的としている。
カンコノキ属植物はそれぞれ1種のハナホソガによってのみ花粉の運搬が行われ、一方のハナホソガは授粉と同時に雌花に産卵し、孵化した幼虫が種子の一部を食べて成長する。両者は互いに繁殖を依存しあった絶対相利共生関係であり、これらの関係は地理的に広く維持されている。しかし、重複産卵などによって果実あたりの幼虫数が増加すると、果実内の種子の食い尽くしが起こる。このような食い尽くしはカンコノキがハナホソガとの共生関係で得られる利益と直結するため、共生系の維持について考える上で重要であり、ハナホソガの個体群密度にも強く影響されると考えられる。そこで、奄美大島のウラジロカンコノキの3集団において採集した果実を用いて種子の生存率・被食害率を算出し、集団間で比較を行った。さらに、ハナホソガの餌となるカンコノキの果実の大きさや胚珠の数には個体間で差がみられるため、ハナホソガの種子食害にも影響を与えることが予測される。そこで、これらの果実の形質が、ハナホソガの種子食害に与える影響についても検証を行った。