ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-040
*木村勝彦, 東条聡子, 吉田和樹 (福島大・理工)
尾瀬における植物へのニホンジカの影響として、森林群集とニッコウキスゲ個体群への影響を調査した。
尾瀬沼周辺の針葉樹林では成木への直接的な影響を与える樹皮剥ぎは認められないが、実生や稚樹の食害による更新プロセスへの影響が懸念されるため、5カ所のギャップにおいて実生約300個体と稚樹約150個体について食害状況を調べた。その結果、林冠を構成する針葉樹では被食は顕著ではなく、特に大台ケ原で被害の甚大なトウヒでは被食率が極めて低いこと、広葉樹ではミネカエデなどの被食率が高いがダメ-ジの顕著な種はオオカメノキ程度であり、当面は森林の更新に対して重大な影響を与えていないことが明らかになった。
大江湿原のニッコウキスゲについては、近年シカの食害で減少しているといわれているが、定量的な把握は行なわれていない。そこで、ル-プ状にした針金で個体識別した351シュ-トと7本のライントランセクトとして設置した315個の1mx1mコドラ-トで区別した約6000シュ-トについて、6月初めの芽出し時期から秋にかけて数回の個体数、サイズ、被食状況の調査をおこなった。その結果、枯れ草の中で目立つ芽出し段階から7月の開花前までの被食が予想外に極めて少なく、夏以降に急激に被食が増加して8月末時点では地点によっては50%以上のシュ-トが根際までの強い被食を受けることがわかった。また、被食率はトランセクトによって大きく異なること、大江湿原では蕾や花の被食が顕著でないことも明らかになった。コドラ-トは再現可能なように設置してあるため、今後の個体群の変化を量的に把握できる。なお、針金によるシュ-ト個体識別では直径1cm程度のル-プに9割のシュ-トが翌年も入り、シュ-トが移動せずある程度識別が可能なことがわかった。