ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-044
*高橋明子(首都大), 市原優, 島田卓哉(森林総研・東北)
種子の形質は、捕食や散布あるいは菌類による腐敗作用などの生物間相互作用を介して、種子の生存過程に大きな影響をもたらす。近年、種子のサイズおよび化学成分に非常に大きな種内変異が存在することが報告されており、個々の種子レベルでの形質の違いが種子の生存過程に影響する可能性が指摘されている。
コナラ種子には抗菌物質であるタンニンが含まれ、その含有率は個々の種子で大きく異なる。コナラ種子のサイズおよびタンニン含有率に応じて、種子の主要な病原菌であるナラミノチャワンタケ感染による死亡率が異なるかどうか、接種実験により検証した。実験には、岩手大学滝沢演習林で回収し、種子重およびタンニン含有率既知の種子を用いた。タンニン含有率は、近赤外分光法によって非破壊的に推定した。MEA培地で培養したナラミノチャワンタケ菌糸上にコナラ種子を設置し、10?Cで保存した(n=109)。1ヶ月後、果皮を取り除き、種子の生死を確認し、種子形質との関係をロジスティック回帰により解析した。その結果、種子サイズの死亡確率への影響は認められなかったが、タンニン含有率の低い種子は死亡しやすいという傾向が認められた。種子のタンニン含有率の違いが、病原菌への抵抗性の違いを介してコナラ種子の生存過程に影響することが明らかになった。また、チャワンタケ同様主要な種子消費者であるアカネズミは、サイズが大きくタンニン含有率の低い種子を好むことが報告されている。アカネズミは種子サイズ、タンニン含有率の両形質において選択性を示すのに対し、チャワンタケはタンニン含有率においてのみ選択性を示すことから、野外では種子消費者相が変化することで、生残に有利な種子形質も変化する可能性が示唆された。
*近赤外分光法:非破壊成分分析法の一種。対象に照射した近赤外光の吸光度から、化学物質の濃度を推定する。