ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-253
*土屋一彬,大黒俊哉,武内和彦(東大院・農)
都市近郊に残存する樹林地の多くは、農村景観の構成要素であった里山を起源としており、生物相保全やレクリエ-ション利用の観点から植生管理の継続が求められている。本研究では、林床植生に影響すると考えられる社会経済条件のうち、これまで明確でなかった、行政の施策展開に関わる、ゾ-ニング、管理者、保全政策の影響を把握するため、多摩丘陵北部地域を対象とし、アズマネザサの稈高を下刈り状況の指標とした上で、その規定要因を分析した。
規定要因を分析するため、稈高を目的変数とし、ゾ-ニング、管理者、保全政策、傾斜度、斜面方位、斜面上の位置、行政単位を説明変数とした回帰木を実施した。また、ゾ-ニング、管理者、保全政策の組み合わせによる稈高への影響を比較した。さらに、保全政策のもとでの管理の規定と運用について行政への聞き取りを行った。
回帰木の結果、一回目で行政と市民団体が土地所有者より、二回目で市民団体が行政より、三回目で行政のうち市街化区域が調整区域より低い稈高と分枝された。稈高を比較した結果、市街化区域では行政や市民団体が管理する場所の稈高が土地所有者に比べ低かった。調整区域では、市民団体が管理する部分は市街化区域と同様土地所有者に比べ稈高が低い一方、行政が管理する部分は土地所有者と同水準の稈高であった。聞き取りの結果、行政は一部箇所を除き積極的に管理を行っておらず、市民団体や土地所有者の管理が規定されている場合でも管理状況の確認や指導を行っていなかった。
行政が調整区域で管理する場所の稈高が高いのは、施策に管理内容が明確に規定されていないことなどが要因と考えられた。市民団体が管理する場所が低い稈高なのは、同一箇所で下刈りを継続してきたためと考えられた。以上から、都市近郊ではゾ-ニングと管理者の組み合わせが里山の林床植生を規定していると結論づけられた。