ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-258
*平井茉美(東邦大学・理),浅田正彦(千葉県生物多様性センタ-)
近年イノシシ(Sus scrofa)による農作物被害が深刻さを増している。イノシシによる農作物被害拡大の原因の一つとして、耕作放棄地の増加が挙げられているが、イノシシの選好性の高い耕作放棄地の特性や環境要因についての研究はほとんど行われていない。そこで本調査では、千葉県印西市にある谷津田内の耕作放棄水田において痕跡調査を行い、イノシシの好む遮蔽度、土壌表面の水分条件を明らかにすることを目的とした。
2010年7月-10月に毎月49調査区において、掘り起こし跡、ヌタ場、ネヤの位置と数、同時に遮蔽度と土壌表面の水分条件を調査した。遮蔽度は各調査区8地点で畦から田中央に向って10mのところで赤い布を用いて測定し、水分条件は土壌表面を乾燥、泥、水面の3段階に分け、それぞれの占める割合を目視で10段階評価した。
痕跡数は季節によって変動しており、夏期(7~8月)にはヌタ場が、秋期(9~10月)には掘り起こし跡が多く、イノシシの行動には季節変化があることが示された。ヌタ場は夏期に土壌水分が多い湿潤な調査区で多く、遮蔽度には影響を受けていなかった。掘り起こし跡は秋期に土壌水分が多く遮蔽度が中程度の調査区で多く確認された。ネヤは秋期に初めて確認された。ネヤは遮蔽度の高い調査区でのみ確認し、ネヤの周囲の遮蔽度は平均95.6%±1.98SDと高い値であった。そして調査期間を通して、遮蔽度の低い調査区、冠水しているような過湿な調査区では利用が少なかった。
これらの結果から、イノシシに利用されにくい耕作放棄水田にするためには湛水状態で管理するのが望ましいと考える。湛水状態ではイノシシの餌となる土壌生物相を変化させることができるだけでなく、植物の遷移スピ-ドが遅いため、遮蔽度を抑えることもできる。