ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-268
*林雄太,吉川正人(東京農工大・院・農),藤田卓(日本自然保護協会)
群馬県みなかみ町の赤谷川上流域で進められているAKAYAプロジェクトの一環として、2009年10月に支流の茂倉沢において生物多様性復元を目標とした治山ダムの中央部撤去が実施された。本研究では、ダム撤去後の渓畔植生の変化をモニタリングするための基礎的情報として、ダム設置が地形と植生に及ぼしている影響を明らかにするとともに、破損ダムが連続する区間の地形と植生の状態を把握することでダム撤去が植生に与える影響について考察した。
茂倉沢を含めた標高・流域面積の近似する4つの沢において、ダム設置区間、ダム非設置区間、ダム破損区間(茂倉沢のみ)ごとに、河床勾配の計測、渓畔地形の分布調査、植物社会学的植生調査を行い群落区分した。
その結果、植物群落は25群落(高木6,低木8,草本11)に分類された。設置区間では非設置区間に比べて河床勾配が緩く、堆砂によって流路からの比高の低い砂礫堆・低位段丘面が形成され、先駆的な性質を持つケヤマハンノキ群落や向陽地を好む高茎草本群落であるクロバナヒキオコシ群落、林冠の閉じた砂礫堆に成立するウリハダカエデ稚樹群落などが特徴的に確認された。谷幅の広い沢では谷壁や谷底の露岩環境が激減しており、流水辺の岩隙に成立するナルコスゲ群落や湿性の露岩谷壁に成立するウワバミソウ群落が消失したと考えられる。
破損区間では、河床勾配と地形の比高はダム設置前の値に近づいているものの、植物群落の大部分は設置区間と共通するものであった。谷底は砂礫堆(裸地)と低位段丘面が高い割合を占め、谷壁には露岩が目立った。土砂流失した面と堆積した面が砂礫堆(裸地)となっており、これらの比高は低く、その面積は他の区間より多いため土砂流出により大きな撹乱を受けていると考えられる。撤去においては谷底の植生を大きく撹乱する土砂流出の対処が課題である。