ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-269
*本田美里(京大・農),阪口翔太,山崎理正,高柳敦(京大院・農)
近年世界的にシカ類の密度増加による森林生態系の劣化が進んでおり、日本国内でも同様の報告がされている。シカ類による過度の採食が長期間続くと自然回復が困難になるほど植生が衰退し得るという指摘もある。京都府北東部に位置する京都大学芦生研究林(以下研究林)では、1990年代後半からニホンジカ (Cervus nippon) の採食による植生の構成の変化と衰退が進んでいる。研究林では2006年6月から1つの集水域 (13ha) の周囲に防鹿柵が設置され、設置から4年を経て柵内では柵外に比べ顕著に植生が回復している。本研究では研究林の中でも希少な草本植物の多く生育する天然生渓畔植生を対象に、防鹿柵によりニホンジカを排除した状態とニホンジカの過採食圧地域を放置した状態を比較することで、埋土種子相がどのような影響を受けるかを評価することを目的とした。
2010年4月上旬に研究林上谷流域内の防鹿柵で囲まれた集水域を含む4つ集水域の各25地点からそれぞれ100ccずつ土壌を採取し、温室にて播き出し試験を行った。その後4月から8月までは週に1回、9月から12月までは2週間に1回程度、発芽状況の観察と発芽実生の種同定を行った。また、同年の9月上旬から10月下旬にかけて土壌採取地点で植生調査と開空度の測定を行った。植生調査では土壌採取地点を中心とした半径50cm、1m、2m、3mの円形プロットを設置し、4段階のスケ-ルに分けて出現種とその被度を記録した。
播き出し試験の結果、採取土壌からは34科55種の種子植物が発芽した。植生調査では62科166種の種子植物と11科30種のシダ植物の出現が記録された。播き出し試験の結果と空間スケ-ル別に評価した植生調査の結果を用いて、埋土種子相と現存地上部植生の関係について議論する。