ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-277
前川恵美子, 武田義明(神戸大・人間発達)
高度経済成長期,神戸市は「山,海へ行く」のスロ-ガンのもと,六甲山を削った土砂を用いて湾岸地域を埋め立て,土砂の採取跡地に大規模な法面をもつ宅地を造成した.造成から約50年たった現在,それらの法面の一部は木本種が侵入し森林群落が成立している.しかし他の都市域孤立林と同様に,外来種や園芸種が多く侵入し,もとの六甲山の植生に戻っているとは言えない.本研究の目的は神戸市における市街地法面の植物群落の遷移および外来種・園芸種の侵入の現状を明らかにすることである.
神戸市灘区・鶴甲団地と神戸市東灘区・渦森台団地の2つの団地において,長大法面に成立した森林群落の植生調査を27地点で行った.同時に造成工事の影響を受けなかった周辺林分ついても植生調査を10地点で行った.法面には造成時,外来牧草およびオオバヤシャブシの播種がなされている.植生調査の結果をもとに群落区分を行い,植生単位ごとに外来種率,園芸種率,各種子散布型の割合を求め,階層構造の違いを比較した.
群落区分の結果,市街地法面においてムクノキ,エノキ,トウネズミモチ,ナンテン,ノイバラなどを識別種とするムクノキ-トウネズミモチ群落が区分され,オオバヤシャブシ,マサキなどを識別種とするオオバヤシャブシ下位単位とニセアカシア,シャリンバイなどを識別種とするニセアカシア下位単位に分けられた.周辺林分はコナラ-アベマキ群集と同定した.ムクノキ-トウネズミモチ群落ではトウネズミモチ,ニセアカシアなどの外来種とオオバヤシャブシ,シャリンバイなどの園芸種が多く出現した.また鳥被食散布型の種が周辺林分よりも多く出現した.ムクノキ-トウネズミモチ群落は外来種・園芸種を多く含み,周辺林分の優占種であるコナラ属の木本種や夏緑低木を欠くため周辺林分と同じ群落に遷移する可能性は低いと考えられる.