ESJ58 シンポジウム S01-2
熊谷直喜(水工研)
一般性の高い生態学理論を構築するには、あらゆる系における現象の比較が欠かせない。とくに陸域と水域における生態現象の類似と相違を比較すれば、より適用範囲の広い理論へと迫ることができるだろう。ここでは、小型の動物が固着生物をマイクロハビタットとして利用する宿主-寄生者相互作用について、陸域と水域生態系とを比較する。宿主利用の現象は陸上植物と植食昆虫の系を対象として古くから研究されてきた。これらの植食昆虫の大多数は少数の植物種のみを利用するという宿主特異性をもつ。そのメカニズムとして植食とその防御による 2 者間の共進化、または捕食回避に有利な宿主を選択するという 3 者間の相互作用が考えられており、両者の相対的重要性が議論されてきた。一方、水域においても固着生物を宿主とする現象は広く成立しており、陸域と同様のメカニズムで説明されてきた。しかし、水域では陸域と異なり宿主特異性はあまり見られず、宿主も寄生者も多数の生物門にわたっている。例えば、節足動物のほか軟体動物、環形動物、棘皮動物などが、大型植物に限らず刺胞動物、海綿動物、苔虫動物などをも利用する。本公演では、陸域・水域生態系間における主に餌資源構造の違いに着目することで、宿主利用のメカニズムを俯瞰し整理・再考する。その実例として、ソフトコ-ラルを利用するヨコエビの系を用いた研究を紹介する(Kumagai 2008)。また学会発表や論文投稿の過程で障壁となった用語の定義や概念などにおける陸域・水域ギャップについても言及し、生態系を超えた生態学の一般理論の可能性について議論する。