ESJ58 シンポジウム S01-3
久保田康裕(琉球大)
従来の野外生態学の研究は、対象とする生物の分類群(材料)あるいは生物種のハビタット(場所)に応じて細分化が進んできた。陸域と海域の間で顕著と指摘される生態学のコミュニケ-ションギャップは、分類群やハビタットの組み合わせの間でも、程度の差はあれ「入れ子的」に存在する。このようなコミュニケ-ションギャップは、材料や場所にとらわれない生態学的機構の一般則を考える上で大きな障害となる。生物多様性の広域的なパタ-ンを理解する上で、マクロ生態学は生態学的アプロ-チと進化生物学的アプロ-チをつなぐ視点を提供する。マクロ生態学では、生物種の分布を(特定の場所に限定することなく)全球スケ-ルつまりフルレンジで分析するため、種の環境に対する生理的適応や地理的イベントを契機としたマクロ進化が、地域間の種多様性の変異に及ぼす影響を定量できる。また、ラポポ-ト則や種多様性の緯度勾配などのマクロスケ-ルパタ-ンが様々な分類群に共通して観察されることから、マクロ生態学は(特定の分類群に制約されない)生物多様性の創出機構の一般則を検討する手がかりも与えている(Lawton 1999)。マクロ生態学の研究は、陸域の生物種の分布情報の集積に伴い1990年代以降、急速に進展した。最近では海洋生物のマクロ生態学的なパタ-ンの記載が進み、陸域と海域の生物群集に共通した集合機構を検証できる状況になりつつある(Witman & Roy 2009)。本講演では、陸域と海域で観察される生物多様性のマクロ生態学的なパタ-ンを、既存研究に基づいてレビュ-し、陸域と海域の生物群集を比較するアプロ-チによる生物多様性研究の可能性について議論する。