ESJ58 シンポジウム S07-4
吉田丈人(東京大・総合文化)
自然共生型社会の実現は重要な社会目標であり、自然再生は、劣化した自然を再生することはもとより、人と自然との新たな共生関係を地域に築くためのアプロ-チとして期待される。私達は、湖沼とその周辺環境を含む水辺生態系の自然再生に寄与する総合的な環境研究を、福井県三方湖とその周辺流域を対象にして実施してきた。
三方湖は、ラムサ-ル条約登録湿地三方五湖の最上流に位置する淡水の湖である。天然ウナギや希少なコイ科魚類を含む多様な魚類相は、三方五湖の生物多様性を特徴づけている。しかし近年、魚類をはじめとした水辺生態系の生物多様性が顕著に低下しつつあり、富栄養化などの水環境の劣化、および水田圃場整備や河川整備による湖と用水路や水田の間の水系連結の分断化が、主要な要因として考えられている。
自然再生の具体的な計画立案をささえる科学的情報を整備するため、私達は、生息環境や水系連結の総合的かつ詳細な評価を行っている。これまでの研究で、浮葉植物のヒシが富栄養条件で大規模に繁茂し、それが湖内の水質・生物相・物質循環に大きく影響することを明らかにした。また、水系連結を取り戻すための再生技術として、水田魚道を用いた順応的管理を実験的に実施し、一定の効果が見込めることがわかった。さらに、水辺生態系と地域住民との関係を社会科学的に調査した結果、人と自然のかかわりには多様なあり方・価値観が存在することや、近年そのかかわりが弱化しつつあることが示唆された。弱化しつつあるかかわりを取り戻しつつ、地域が独自に生態系や生物多様性をモニタリングできる仕組みとして、協働参加型調査を実施してきた。これらの研究や取組みの結果、地域の多様な主体の参加をえて、自然再生協議会を設立するよう準備が現在進んでいる。