ESJ58 シンポジウム S12-2
森茂太(森林総研・植物生態領域)
植物個体の成長ほど興味深く、大切な生物現象はない。植物個体は実生から巨木まで、個体重量で10^12倍で成長する。植物は、このように大きな幅で長い年月をかけて成長する。この植物成長はなにが制御するのだろう?「個体成長」は様々なモデルで理論的説明がされているにもかかわらず、現実の生物個体の成長予測は非常に困難である。この答えに近づく方法が[Metabolic scaling]だろう。生物個体の大きさに合わせて個体呼吸はどのように変化するか、長年にわたり多くの学説が提出され、熱い議論は今も続いている。しかし、理論は先行するものの幅の広い実測がなく、断片的なデ-タからの「推定」が大半であり決定打が無いのが現状である。そこで、私たちは実生(生重量数ミリグラム)から巨木(約10トン)の根を含む植物個体全体の呼吸を測定する方法を考案した。この方法で、シベリアから赤道直下の東カリマンタンまで全ての植物帯で63種、271個体の個体呼吸を測定した。その結果、植物個体呼吸は小さな個体で、「個体重量に比例し」、個体が大きくなるにつれて徐々に個体呼吸と重量の関係は変化して、大きくなると個体呼吸は「個体重量の3/4乗に比例」していた。これらの関係は、2本の「単純べき関数」(両対数軸上で傾きが1と3/4)を漸近線とする「混合べき関数」でモデル化できた。こうした上に凸の関係は、植物個体が成長するにつれて徐々に頭打ちになる成長曲線を考えると生物学的に合理的な関係であろう。日本では1970年代の成長曲線研究から、類似の予想があった。しかし、何故こうした上に凸の傾向になるのだろう?小個体の呼吸は、重力の影響が小さく生物化学的な反応で制御され、大個体では重力の影響が大きく、丈夫さを保つため重量当たりの呼吸は小さくなるのだろう。「混合べき関数」モデルは、生物個体呼吸の「物理化学的制御」を検討する糸口になるのかもしれない。