ESJ58 シンポジウム S12-4
*福森香代子(テキサス大),酒井陽一郎,西松聖乃,陀安一郎,奥田昇(京大・生態研)
単細胞生物から恒温動物にいたるほとんど全ての生物の代謝量は体サイズの3/4乗に比例して増加する。近年、このような個体レベルのアロメトリ-関係を高次の生態系レベルまでスケ-ルアップすることによって生態系代謝を理解する試みが注目されている。生態系の代謝量は個体代謝量の総和と定義され、理論上、資源、温度、生物群集のサイズ分布によって決定される。Enquist et al. (2003)は陸上生態系の代謝を異なる地域間で比較し、温度補正後の代謝量が群集の体サイズ分布によって変異する可能性を示唆した。しかし、資源や温度をコントロ-ルした環境下で体サイズ分布が生態系代謝に影響することを明示的に検証した研究は存在しない。そこで、我々は、物理・化学環境を高度に制御した中規模人工生態系を用いて、生態系代謝を支配するメカニズムの解明を試みた。本実験では、プランクトン群集の体サイズ分布を変異させるため、高次捕食者である魚類の摂餌機能を操作した。
実験の結果、栄養塩の初期濃度をコントロ-ルしたにもかかわらず、プランクトンの沈降および底層からの栄養塩回帰プロセスによって時系列でプランクトン群集のCNP比が明瞭に変化した。プランクトン群集のNP比は実験前半で低く窒素が律速資源となっていたが、実験経過に伴って増加し、後半にはリンが律速資源となる操作区もみられた。生態系代謝はプランクトン群集の体サイズ分布に依存せず、懸濁物のCN比と相関が認められた。
本研究により、湖沼の生態系代謝は個体代謝の単純な総和とならず、最も希少な栄養塩に強く制限されることが明らかとなった。生物の高次階層システムとして生態系代謝を理解する上で、個体代謝を説明するサイズスケ-リング則のみならず生態化学量論を考慮した新たなモデル構築の必要性が示唆された。