ESJ58 企画集会 T12-3
伊藤洋(国環研)
想定された生態的相互作用の枠組において、その枠組みが自然選択を通じてもたらし得る長期的進化動態は、Adaptive Dynamics理論により効果的に解析することができる。生態的相互作用が複雑な場合や複数の集団が共進化する場合にも有効である。特に、方向進化や1次元の形質空間における進化的分岐(種分化に対応)については、それらの解析手法はほぼ確立されている。その一方で、形質空間が多次元である場合の進化的分岐については、限られた場合を除き、その条件や性質は得られていない。これは、多次元形質空間における進化的分岐については十分条件が存在しないものが多く、Adaptive dynamicsの現在の手法が適用できないことに起因する。
そこで本研究では、進化動態の決定論的性質の新たな記述子として、最尤進化経路を考案した。この最尤進化経路に基づく解析により、方向進化を続ける集団が高い確率で進化的分岐を生じる条件を解析的に導き、その有効性を数値的に確かめた。従来の手法では、形質空間における進化的分岐点の有無が進化的分岐の可能性を決定するものであったが、多次元形質空間においては、点ではなく曲線や曲面状の、進化的分岐線(または面)の存在を吟味する必要があることが本研究により示された。