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ESJ58 企画集会 T14-1

生物多様性の時間的ダイナミクスをめぐる概念と保全・管理への示唆

富松裕(東北大・生命科学)・小柳知代(農環研)


生息地の破壊や分断など,近年の人間活動にともなう景観の改変は,生物多様性に多大な影響を及ぼしている。しかし,現在見られる生物多様性の空間パタンは,現在だけでなく,過去の景観構造を反映し続けていることが少なくない。これは,種の絶滅や定着が,景観や環境の変化に対して遅れて生じることで,多様性が一時的に過剰になる,または不足するために生じる。このような種の応答のタイムラグ("extinction debt" や "colonization credit" などと呼ばれる)を明らかにすることで,景観変化にともなう生物多様性の時間的ダイナミクスを理解しようとする試みが,近年盛んに行われている。タイムラグを考慮することは,効果的な保全・管理策を講じる上で極めて重要である。例えば,多くの種で絶滅までのタイムラグが大きいとき,今後失われる生物多様性の減少量を過小評価してしまう可能性がある。世代時間の長い群集では,絶滅までのタイムラグが100年以上にも及ぶことが指摘されており,今後いっさい生息地が失われなかったとしても,生物多様性が長期にわたって減少し続ける可能性が高い。また,生息地を復元する際,分散能力の低い種が定着し種多様性が回復するまでには,数百年を要する場合もある。このことは,自然再生事業における長期的な視野および継続的なモニタリングの重要性を示している。本講演では,生物多様性の時間的ダイナミクスをめぐる概念と,その研究手法,これまでに得られている知見,保全・管理への示唆について解説し,本トピックの重要性について議論する。


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