ESJ58 企画集会 T17-4
*石川由希, 田部 慧, 三浦 徹(北大院・環境)
生物をとりまく環境は常に変動している。そのため生物は状況に応じて適切にふるまい、変化に富む環境を生き残ろうとする。社会性昆虫のコロニ-は、タスクへの従事率やカ-スト比などを環境に応じて変化させる。このような集団レベルでの環境応答性はどのように実現されているのだろうか?社会性昆虫の発生運命は同巣他個体によっても調節される。例えばシロアリの兵隊分化は、兵隊により抑制され、生殖虫により促進される。つまりシロアリはカ-スト組成に応じて発生運命を変化させ、環境変化に集団レベルで応答するのである。しかしここには致命的な欠陥がある。応答の遅さである。外敵などの環境変化は数時間で変化するが、兵隊分化は脱皮を介して行われるため数週間を必要とする。すなわちこの「遅い」応答だけでは、直近のコロニ-の危機に対応できない。そこで我々はこれを補う機構として、「行動の可塑性」に注目し、オオシロアリHodotermopsis sjostedtiを用いて下記の行動実験を行った。
シロアリを単独で外敵に曝した場合、その攻撃性は、兵隊>擬職蟻>二次生殖虫の順に高かった。ところが同巣他個体と組み合わせて外敵に曝すと、擬職蟻の攻撃性は随伴するカ-ストによって短時間で劇的に変化した。兵隊の存在は擬職蟻の攻撃性を抑制し、二次生殖虫の存在は攻撃性を促進した。この効果は他個体を取り除いた後もしばらく維持された。一方、兵隊や二次生殖虫の攻撃性はこのような可塑性を示さなかった。これらの結果から、兵隊や生殖虫の存在はワ-カ-の発生運命だけでなく、短期的な行動レベルも調節していることが明らかとなった。ワ-カ-の攻撃性の可塑性は発生運命の応答の遅さを補完し、コロニ-を効果的に防衛する重要な機構であると考えられる。