ESJ58 企画集会 T23-3
嶺田拓也(農研機構・ 農工研)・東 淳樹(岩手大・農)・日鷹一雅(愛媛大・農)
昨年,名古屋で開催されたCOP10では,SATOYAMAイニシャティブが採択され,かつてわが国の里山で見られた伝統的な生産・資源管理法が見直されようとしている。里地の耕作現場においても,環境保全型農業を謳い,減農薬や省農薬栽培が盛んに取り組まれている。特に,化学合成された肥料や農薬を一切使用しない有機農業は,2006年に施行された有機農業推進法を背景に官民一体となった技術開発や普及が進みつつあり,農薬を使用しないことから,里地の生物多様性保全にも貢献しうる農法として,さらなる付加価値を目指して取り組む事例も増えてきている。しかし,最近の有機農業における新しい栽培技術には,除草効率や生産性を重視するあまり,生物多様性に対して負のインパクトを与えている場合も少なくない。また,生物多様性の向上を前面的に打ち出した生物保全型の有機農業技術では,特定の生物の利用や保全を優先しすぎている事例も見受けられ,生態系のバランスを崩してしまうおそれがある。本報告では,近年の有機水稲作におけるさまざまな技術イノベ-ションに見られる里地の生物多様性への正負の影響について,具体的事例を交え論点を整理したい。取り上げる有機水稲栽培体系や技術としては,「ジャンボタニシ農法」,「米ぬか除草」,「アイガモ水稲作」,「ふゆみず田んぼ」などを予定している。