日本生態学会 関東地区会

公開シンポジウム: 森林生態系長期モニタリングの課題と今後の展望

概要

日時  2019年3月6日(水) 14:00~17:15

会場  国立環境研究所 地球温暖化研究棟交流会議室(1F)

企画者  竹内やよい(国立環境研究所)黒川紘子・飯田佳子(森林総合研究所)

日本生態学関東地区会では、公開シンポジウム 「森林生態系長期モニタリングの課題と今後の展望」を開催し、モニタリング維持に関する課題と解決策について考えます。森林のみならず多様な生態系でのモニタリングに関心のある方のご来場をお待ちしております。


近年、気候変動や人為攪乱による自然・社会環境は劇的に変化しており、持続可能な森林管理や生態系サービスの維持のためには、このような変化に対する森林生態系の応答の把握や将来予測が必須である。1950-60年代より日本およびアジア各地では、森林の生物多様性、群集動態、機能、生産力などを明らかにするための調査区が設けられ、長期モニタリングが進められてきた。現在これらの長期モニタリングサイトを活用し、局所から地域レベルまでの森林構造や機能の解明、地上観測点のネットワーク化によるデータや知識の共有、分野横断による統合的解析等により森林の環境応答に関する知見が集積しつつある。一方で、森林調査区の維持・管理の継続における問題が深刻化しており、モニタリングの維持が懸念される。特に調査維持ための人材・資金獲得、管理者の交代による過去のデータの埋没・喪失などは多くのサイトに共通する課題である。本シンポジウムでは、モニタリングを将来にわたってどのように維持、活用していくかを見出すため、森林長期モニタリングに携わる研究者が登壇し、各機関・サイトにおける知見、経験、課題を共有して、モニタリング維持の具体的な方策を議論する。

プログラム

14:00-14:10 趣旨説明
竹内やよい(国立環境研究所・生物生態系環境研究センター)
14:10-14:40 「巨大噴火後の生態系モニタリング :三宅島2000年噴火を例に」
上條隆志(筑波大学・生命環境系)
14:40-15:10 「森林における環境因子等の長期モニタリング」
高橋善幸(国立環境研究所・地球環境研究センター)
15:10-15:40 「モニタリングサイト1000森林・草原調査における課題と展望」
日野貴文((一財)自然環境研究センター)
15:50-16:30 「先達の遺産を活かすには:森林総研の長期試験地維持と発掘された古資料について」
黒川紘子・新山馨(森林研究・整備機構 森林総合研究所)
16:30-17:15 コメント・総合討論 コメントテーター:武生雅明(東京農業大学)・林健太郎(農研機構・農業環境変動研究センター)

講演要旨

巨大噴火後の生態系モニタリング :三宅島2000年噴火を例に

上條隆志(筑波大学・生命環境系)

“巨大噴火後、生態系はどのように回復するのか”を明らかにすることは、火山生態系の理解を深めると共に、生態系修復や生態系管理に関する基礎知見としても有効となる。 研究対象地の三宅島は2000年夏に大噴火した。島の生態系は多大な影響を受け、森林の約60%にあたる2,500 haが強く破壊された。火山灰放出が終息した後も、SO2を含む火山ガス放出が続き、被害が拡大した。演者らは噴火直後から三宅島の生態系の被害状況と回復について、生物多様性、生態系機能、景観(植生分布)の面から調査研究を継続的に行い、巨大攪乱後の初期回復過程に関する研究データを得てきた。これらのデータから、植生の面的な回復、植生と鳥類の回復過程、初期土壌生成過程、有機物を含まない新鮮火山灰における化学合成細菌群集の形成、などを明示あるいは示唆してきた。しかし、課題も多く、十分検討できていない点もある。一つ目は、噴火前との比較である。著者らが噴火前に設定した固定調査区のいくつかは、泥流等で破壊されアプローチが不可能になってしまい、噴火直後のモニタリングが実施できなかった。二つ目は、植生回復に伴い固定調査区へのアプローチが困難になることである。三つ目は、人材確保である。離島であるため調査には一定期間の現地滞在が必要であり、対象分類群の種同定能力有すると共に現地滞在可能な人材確保が課題となっている。今回の発表では、三宅島におけるモニタリング成果を紹介すると共に、実施上の課題について紹介する予定である。

森林における環境因子等の長期モニタリング

高橋善幸(国立環境研究所・地球環境研究センター)

国立環境研究所では地球環境モニタリングプロジェクトの1つとして、1999年より森林生態系炭素収支モニタリングを開始した。これは京都議定書を受けた森林生態系の二酸化炭素吸収能力の精緻な評価を目的としたものであり、その当時、実用化され始めていたタワーによるフラックス観測技術により多くの知見を集積してきた。一方で、観測機材の急速な普及によるコモディティ化は個別サイトレベルでの研究成果が論文になりにくい状況につながり、研究資金や若手研究者の確保に困難が生じている現状がある。タワー観測においては同分野の各観測グループの連携によりデータの流通性・互換性・一貫性・速報性の向上を進めるとともに、タワーを中心としたインフラを異なる研究コミュニティの連携の拠点として活用するなど、観測サイトの研究基盤としての価値を高める努力をすすめている。 また、国立環境研究所と地方公共団体の環境系研究機関との共同研究として十数年前より、国内のブナ林を主とした森林において、森林衰退の調査を実施してきている。この共同研究ではタワーや電源などのインフラの無い山地において、森林の衰退やこれに関係する大気汚染などの環境因子をモニタリングするための手法を検討・検証し、標準調査マニュアルとして整備することで、定期的な人事異動による担当者の交替が起きやすい地方公共団体の研究機関でも長期的なデータ集積が出来るように工夫してきた。しかしながら、現状としては研究資金やマンパワーの制約が年々厳しくなっており、継続的なデータ集積をすすめるために、調査の高度化と同時に調査に関わる負荷の軽減を進める必要性に迫られている。 今回の発表ではこれらのモニタリングにおけるいくつかの事例について紹介する予定である。

モニタリングサイト1000森林・草原調査における課題と展望

日野貴文((一財)自然環境研究センター)

モニタリングサイト1000は、日本各地の様々な生態系(森林草原、高山帯、里地、陸水域、沿岸域、サンゴ礁など)を対象にした環境省による生態系モニタリング事業であり、100年以上のモニタリング継続を目指している。この事業で得られたデータ等は、環境省生物多様性センターのwebサイトで公開され、研究者、地方自治体、教育機関などが幅広く利用可能である。この事業のうち「森林・草原調査」(以下、モニ1000森林調査)では、亜寒帯林から亜熱帯林までを含む約50カ所の森林サイトにおいて、樹木、地表徘徊性甲虫、鳥類を対象に2004年からモニタリングが続けられている。このような広域で、かつ同一の手法による調査が長期間続けられていることは大変貴重である。これまで、モニ1000森林調査に関連した研究により、全国の森林において温暖な気候により適応した種が優占する樹種構成へと変化している、などの知見が得られている。モニ1000森林調査のデータは、このような日本の森林の変化を捉えるだけでなく、生態学の一般理論の検証、普及教育活動への活用も可能である。そして、モニタリングを長期間続けることで、その学術的、社会的意義が益々高まると思われる。一方で、サイトの代表者の引退や、絶えず事業予算の見直しを受けるなど、モニタリングを100年以上継続するにはその体制や予算が盤石とは言い難い。本発表では、モニ1000森林調査におけるモニタリングを維持する上での課題と対応策について整理し、話題提供したい。

先達の遺産を活かすには:森林総研の長期試験地維持と発掘された古資料について

黒川紘子・新山馨(森林研究・整備機構 森林総合研究所)

森林の動態や生産性、多様性の成り立ちを研究するには非常に長く時間がかかる。例えば、これから樹木の更新動態や長期的な環境変化への応答を明らかにするためのデータを一から取ろうとすれば、研究結果を得られるのは数十年後かも知れない。しかし幸運なことに、さまざまな問いに答え得る調査地やデータは既に存在する。一方、そのような貴重な遺産を、後世にどこまで遺せるかには課題がある。本講演ではまず、森林総研で維持されてきた(こなかった)長期試験地の概要を紹介し、長期試験地維持の重要性や難しさについて考えたい。特に、1987年より長期調査を続けている小川試験地(北茨城)でごく最近行なった取り組みを紹介しながら、調査継続のための具体的案を考えたい。  次に、古資料の話として、森林総合研究所に長く保管されてきた昭和初期の天然林調査データについて紹介する。これは戦前の農林省山林局からの指示で、青森營林局から熊本營林局まで、各地の營林局が国有林に残された天然林を網羅的に調査した昭和2年から10年にかけてのデータである。この約90年前の資料には、森林植生図と植生調査表、林況調査表としての直径階別樹高階別表、美しい手書きの森林断面図(トランセクト図)など貴重なデータが満載である。しかし、損傷の進む紙ベースの資料をどのように保存・デジタル化して、実際の研究につなげるのか課題は多い。このような先達が遺した長期試験地や古い調査データをいかに活用し、重要な研究成果を挙げるかが、現在の研究者に問われている。われわれが90年前のデータを活用できるのなら、現在のデータを90年後の研究者も利用することが可能なのか?と想像することが、このような遺産を遺していくための鍵になるだろう。