日本生態学会 関東地区会

公開オンラインシンポジウム  生物多様性情報を使い倒す~GBIF入門~

概要

日時  2020年10月3日(土) 13:30~15:00

開催形式  オンラインのみ(Zoom)

企画者  細矢 剛(国立科学博物館)、大澤 剛士(東京都立大学)

生態学では、様々な生物多様性情報、とりわけ在データ(オカレンス)が利用されますが、その中には、自身がとったデータばかりでなく、他の研究者のデータを利用する機会も少なくありません。GBIF(地球規模生物多様性情報機構)は、世界最大の生物多様性情報のデータを提供する機構で、世界中の15億件を超えるデータが蓄積され、無料で使用できるようにインターネットを通じて公開されています。本シンポジウムでは、GBIFおよび関連サイトを利用したデータの収集と利用について紹介するとともに、データペーパーなどで出版したデータをこのデータベースに追加するための方法などを紹介し、データ利用の推進を目指します。

参加申し込み  事前に以下のサイトよりお申し込みください。 受付後、Zoomのミーティング情報をお知らせします。 https://forms.gle/UTudhA4sYZTX94sK9

プログラム

13:30-13:50 「GBIFと関連サイトの紹介」
科博・標本資料センター/細矢剛
13:50-14:10 「地球規模生物多様性情報機構(GBIF)のデータを生態学研究に活用する」
科博・標本資料センター/水沼登志恵
14:10-14:30 「原著論文とデータペーパーを一緒に出そう」
都立大・都市環境科学研究科/大澤剛士
14:30-14:50 「WEB上に散在する潜在的な自然史資料の収集」
白梅学園短期大学・保育科/宮崎佑介
14:50-15:00 質疑応答 演者全員
実施中にチャットで受けた質問への回答。必要に応じて、オンラインで議論する。

要旨

細矢剛「GBIFと関連サイトの紹介」

GBIF(地球規模生物多様性情報機構Global Biodiversity Information Facility)は、インターネットを介して、世界の生物多様性情報を誰でも自由に見られる仕組みを作っている国際機構である。58参加国・38機関から提供される4万5千件を超えるデータセットに基づき、世界中を網羅した15億を超えるデータが提供されている。国内では国立科学博物館と国立遺伝学研究所、東京大学が中心に収集した、750万件のアジアでもトップクラスの数の件数がGBIFに提供されている。しかしながら、アジアからのデータはGBIF全体の2%にとどまっており、生物多様性が豊かなアジアからは、より一層のデータの提供が求められている。GBIFのホームページは日本語化が進められており、よりわかりやすく、使いやすくなった。 現在、日本からGBIFに提供されているデータの8割は標本情報である。GBIFには英語の部分が提供されているため、日本語の情報を科博が運営するサイトであるサイエンスミュージアムネット(S-Net)から提供している。また、遺伝研のサイトでは標本情報・観察情報の両者が横断検索できる。 GBIFは現在、学名に関するCOL(Catalogue of Life)、種情報に関するEOL(Encyclopedia of Life)、文献に関するBHL(Biodiversity Heritage Library)、遺伝子配列に基づいて種を認識するUNITEやBOLDなどのイニシアチブと連携を進めており、生物多様性情報のハブとして、さらに機能を強化している。一方、日本ではS-Netはジャパンサーチ(https://jpsearch.go.jp/)との連携し、文化系資料とも横断検索ができる。

水沼登志恵「地球規模生物多様性情報機構(GBIF)のデータを生態学研究に活用する」

地球規模生物多様性情報機構(GBIF)のデータを利用した査読付き論文は2010年代に著しい増加を見せ、現在では4700本を超えている(2020年9月1日現在、https://www.gbif.org/ja/)。そのテーマは、生物多様性とヒトの健康、生物多様性データ、生物多様性科学、生態・進化・行動・系統分類、生態系サービス、気候変動の影響、侵略的外来種、保全と食糧安全保障など、多岐の分野に及ぶ。出版された雑誌別ではPLOS ONE 255本、 Journal of Biogeography 144本、Ecology and Evolution 92本、Scientific Reports 90本、Global Ecology and Biogeography 76本などが並び、生態学に関連する雑誌が上位に名を連ねている。本発表ではGBIFデータが使われた論文の概説である「Science Review 2019」に掲載された論文を中心に、近年の論文の動向を紹介するともに、GBIFのデータをどのように活用しているか事例をあげて解説する。GBIFではサイトからダウンロードしたデータごとにデジタルオブジェクト識別子(DOI)を発行しており、査読付き論文に掲載されたDOIのデータは長期に保持されるので、オリジナルデータの公開を求められた場合にも有効である。実際にGBIFからデータをダウンロードする際の手順や注意点、および報告書や論文にGBIFデータ利用について記載する際の引用のルールについても述べ、生態学研究への活用を促したい。 【参考文献】GBIF Secretariat. (2019). GBIF Science Review 2019. Available at https://doi.org/10.15468/QXXG-7K93

大澤剛士「原著論文とデータペーパーを一緒に出そう」

生態学に限らず、論文発表の際に収集したデータを全て利用できるとは限らない。利用されなかったデータは多くの場合、そのまま研究者のパソコン等の中で眠ってしまう。もし眠っているデータをかき集めたら膨大な量になるだろう。これらを第三者が利用可能な形で出版することができれば、生態学における重要な疑問を解き明かすことに貢献するかもしれない。ただ、新しい研究テーマを前にして、古いパソコンを漁ってデータを引っ張り出すのはいかにも面倒な上、対価も保証されていない。この問題を解決できる可能性があるのが、データペーパーである。データペーパーとは、研究データそのものを論文として出版するもので、公開者には出版物という研究業績および利用されることによる被引用というメリットが、利用者には科学データを、収集者、さらには査読という第三者の評価付きで入手、利用できるというメリットがある。 日本生態学会が発行する英文誌Ecological Researchでは2011年からデータペーパーのカテゴリを設置しており、最新号では初のデータペーパー特集の掲載が開始される。本講演は、データペーパーの基本的なメカニズムの概説とその利点を概説した後、どんなデータであればデータペーパーになりうるのか等の実践的な内容について、演者の経験およびEcological Researchの編集幹事としての考え方を示すことで、参加者の方がデータペーパーの出版を具体的にイメージし、実際に挑戦しようと考えてもらうことを狙いたい。

宮崎佑介「WEB上に散在する潜在的な自然史資料の収集」

ソーシャルメディアを中心に、昨今では市民が観察した生物の画像や動画を気軽にWEB上で共有できるようになった。これらのうち、時間と場所の属性情報が付随するものについては証拠資料をともなう生物分布データとみなすことができる。本講演では、このようなWEB上に散在する「潜在的な自然史資料」とみなせる情報を保全科学に活かすための概念モデルを実際の取り組みに基づいて紹介する。この概念モデルは、博物館法で定められる博物館の目的、すなわち、1) 資料の収集、2) 調査研究、3) 普及教育の三本柱を軸としたシステムの体系化を目指すものである。また、概念モデルにあてはめる実際の事例研究としては、1994年から神奈川県立生命の星・地球博物館で運用されている「魚類写真資料データベース」を中心の場とした取り組みを紹介する。  市民による科学的貢献を意図する生物多様性情報の提供はCitizen Science(市民科学)の範疇として一般的には捉えられるものである。しかし、今回の概念モデルに含まれる市民貢献は、必ずしも当初から科学的貢献を意図したわけではないデータも含まれる。このようなデータを取り扱う上での課題の検討についても、今回の講演では紹介する。