| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


シンポジウム S22-4

比重およびサイズによる土壌有機物の分画:各画分の量・分解速度およびその制御因子

和穎朗太(農環研)

土壌有機物中に含まれる炭素および栄養塩(窒素、リン)の動態を調べたい場合、まずはじめに方法論的な問題に直面する。それは、土壌中には、溶存有機物や植物遺骸から腐植物質まで、由来、形状、反応性の異なる様々な有機物が混在しているためである。よって、土壌中の全炭素の定量だけでは不十分であり、土壌有機物を「生態学的に意味の異なる」プールに分離して評価するアプローチが求められてきた。物理的分画法は、土壌粒子を比重およびサイズ(粒径)に応じて分離することで、異なる分解段階にある土壌有機物の評価をある程度まで可能にした。

枯葉や枯死した根などのリターやその粉砕物は、サイズが大きく(cm〜数百μm)、その比重は土壌鉱物粒子の約半分と低い(1.0〜1.5 g cm-3)。一方、分解の進んだ有機物(腐植物質)は光学顕微鏡ですら個々の形が判別できぬほど小さく、数十μm以下の微細鉱物粒子と強く結合しているために比重は高い。粗大 ・低比重から微小・高比重まで連続的に存在する土壌有機物を段階的に分画してみると、前者から後者へかけて、C:N比の減少(微生物由来の有機物の増加)、分解に伴う糖類の減少およびベンゼン環構造、直鎖構造の増加、そして土壌無機成分(鉱物粒子や金属イオン)との結合度の増加、炭素の平均滞留時間の増加などの一般的傾向が見られる。これらの物理分画を基にした、分解・蓄積メカニズムを組み入れた土壌有機物動態モデルの開発の必要性が指摘されている。

本講演では、比重およびサイズによる分画法を適用することで分かってきた土壌有機物の動態についてレビューし、各画分の炭素量や滞留時間を制御する因子について考察する。また、これらの実測データを基に提案されている土壌有機物の分解・蓄積プロセスの概念モデル(仮説)について議論する。


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